ザ・クインテッセンス 2017年4月
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 歯冠側から通常に行う根管治療(以下,根管治療と略)が困難な場合や根管治療だけでは治癒に導けない場合に歯根端切除術や意図的再植といった外科的歯内療法が適応となる.昨今,商業誌やジャーナル, 1990年代Kimらによって体系づけられたエンドドンティックマイクロサージェリー(以下,EMSと略)1は,現在まで複数の研究において非常に高い成功率をもたらすことが報告されてきた(表1)2~6.それまで行われてきた従来法の歯根端切除術とEMSとの最大の相違点は,その名称のとおり,明るい拡大視野をもたらすマイクロスコープの使用である.これを前提に従来法の術式で経験してきた失敗を反映させ,器具や術式,テクニックが改良されてEMSが体系づけられた. 具体的には,従来法では根尖部の視認性の確保とその後の処置のために,便宜的に非常に大きく皮質骨を削除し,根尖部の切断の際には大きなベベル角を付けていた.骨削除が大きいために,治癒の遅延や線維性結合組織をともなう骨窩洞の治癒が生じるといった欠点があった.そして大きなベベル角を付けて根尖部を切断することで,歯根頬側での皮質骨と歯根の過剰な切削や,逆に舌側では歯根の切除の不足や根管の見落としなどが原因となり,失敗を招いた.しかしEMSでは,マイクロスコープを使用することによって,そういった欠点や失敗を改善できるようになった.すなわち,明るく拡大された視野においてマイクロミラーを併用することで,最小限の骨削除と,歯軸に対して直角に近い浅いベベル角での必要最小限の根尖部の切断が可能となった.さらに,切断された歯根表面のイスムスやフィはじめに1. エンドドンティックマイクロサージェリー ~現代の外科的歯内療法~書籍において,とくに手術用マイクロスコープ(以下,マイクロスコープと略)を使用した歯根端切除術に関する文献を目にする機会が非常に多く,高い関心が寄せられていることが伺える.ン,マイクロクラック,側枝といった,病因と深く関係すると考えられている重要な構造を観察することもできる.そして逆根管形成のために設計された超音波スケーラー用チップ(以下,超音波チップと略)であるレトロチップを使用することで,歯軸に沿った保存的な逆根管形成が可能となった.これは従来法のマイクロハンドピースとロータリーバーではほとんどなしえないことであった. 逆根管充填材としては,生体親和性が非常に高く封鎖性も良好なMTAセメントなど,新しい材料が用いられるようになった.そういった材料を用い,マイクロスコープ下で確実な逆根管充填を行うことにより,従来法のアマルガムでの逆根管充填で得られなかった良好な治癒を導けるようになった.従来法の歯根端切除術とEMSをメタアナリシスで比較した研究においては,それぞれの成功率は59%と94%と報告されている7.成功率Rubinsteinら(2002)2(5~7年,n=59)91.5%Chongら(2003)3(2年,n=108)89.9%Kimら(2008)4(0.5~2年,n=188)91.5%Shinbori ら(2015)5(12~33か月,n=113)92.0%Kimら(2016)6(4年,n=153)89.5%表1 さまざまな研究で報告されているEMSの成功率.51the Quintessence. Vol.36 No.4/2017—0721

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