ザ・クインテッセンス 2017年8月号
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患者:60歳,女性主訴:左下奥に物が詰まり違和感がある,きれいに白くしたい既往歴:クレンチングを自覚している診査・診断,治療経過 ₆は慢性根尖性歯周組織炎と診断した.₆₇間は,プロービング時に出血を認め,中等度の歯周疾患に罹患していた(図1).不良補綴装置を除去し,根管治療と並行して歯周基本治療を行った.根管治療終了後は,メタルコアによる支台築造を行った. 筆者は,支台歯形成の際,クリアランス,軸面,マージンの3点をとくに意識しながら行うようにしている.まず,クリアランスについてだが,解剖学的な形態に沿って咬合面を削除することにより過剰な歯質の切削を防止でき,適切なクリアランスを得ることができる.とくに生活歯では咬合面を平坦に形成しないように注意が必要であると考えている. つぎに,軸面については,一般的に軸面は6°と推奨されているが,それではパラレルに近くなり,支台歯の高径が長い場合には適合が悪くなる.そのため,軸面は10°〜15°前後が実際の臨床では適切はじめに 修復治療の精度を向上させるためには,支台歯形成,歯肉圧排,印象採得の3点がとくに重要であると考えている.近年,さまざまなマテリアルが登場し,治療後の長期的な安定が期待できるようになってきたが,実際の臨床を振り返ってみると,マージン部からの二次う蝕や,補綴装置の脱離などを経験する.一時的に患者の審美的満足を得られても,補綴装置のマージンが不適合であれば長期的な安定を得られず,結果的に信用を失ってしまう. 精度の高い模型を製作し,長期的な安定を得るためにも,歯科医師が行う的確な支台歯形成,歯肉圧排,印象採得が必要不可欠である.そこで今回は,修復治療の精度向上を目指すにあたり,筆者がとくに重要視している支台歯形成から,印象採得に至るまでの取り組みをみていただきたい.初診時概要(臼歯部の症例)初診:2014年9月New Essence:the Debut若手歯科医師・投稿欄 本欄ではエビデンスに基づいた患者本位の医療,最小の侵襲で最大の効果を得るという考え方に則った治療に重点を置き,患者のための真の医療とは何かを明らかにしていく.修復治療の精度向上への取り組み山本真道キーワード:支台歯形成,歯肉圧排,印象採得For the Precision Improvement of the ProsthesisMasamichi Yamamoto福岡県開業 ナルトミ歯科医院連絡先:〒807‐0805 福岡県北九州市八幡西区光貞台1‐1‐30 1997年神奈川歯科大学卒業,臨床経験18年,開業15年.日本顎咬合学会,日本包括歯科臨床学会,JACD,北九州歯学研究会,日本審美歯科協会,上田塾,経基臨塾,樋口塾会員. 見えないところ,隠れているところにも手を抜かず,しっかりとした基本治療を心がけている.患者から信頼されるホームドクターであり続けるため,温度ある歯科医療を提供し,スタッフとともに治療の結果にこだわりをもち続けたいと考えている.164the Quintessence. Vol.36 No.8/2017—1782

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