新聞クイント2017年5月(お試し版)
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2017年5月10日(水) 第257号2 今月のニュース社 会 毎朝、窓から差し込む光とともに、中国語での話し声が私の耳に入ってくる。現在、上海に在住している現実を噛みしめながら歯科の仕事に携わっているが、今から1年前は上海と日本を行き来するような日々が訪れるとは想像すらできなかった。 2016年4月16日、熊本地震が発生した。私の住んでいた益城町では、地震発生後に自宅は倒壊、近所では火災が発生し、断水、停電、道路の倒壊と一瞬にしてライフラインが閉ざされた。地震直後から余震が続くなか、車の中だけが安心できる空間だった。 「どんなに辛くても明日という日はかならず来る」という言葉がある。本震後に倒壊した自宅を見て、「命が助かっただけでも良かった」と安堵の思いで近所の方々と話したことを今でも鮮明に覚えている。 私自身、被災者になり、支援してくださった方々の気持ちや人の優しさなど、あらためて気づかされた。復興に向けて何か支援できることはないかという気持ちから、森野 茂先生(もりの歯科医院院長)とともに避難所へ向かった。避難所では口腔ケアを中心とする歯や口に関する相談にも対応したが、さまざまな被災状況のなかで精神的にダメージを受けている多くの皆さんが求めていたことは、たわいもない話をただそばにいて聞いてほしい。すなわち人の心に寄り添うということだった。 地震という非日常を体験して感じた、水や食べ物、電気、ガスが当たり前にある日常生活のありがたさ。家族や友人が元気でいること、日常の何気ないことに対する感謝。歯科衛生士として少しでも人の役に立ちたい。一度きりの人生、新しいことにチャレンジしてみようという気持ちが湧き起こった。 そして私はこの震災をきっかけに、楊 磊先生(上海マロクリニック 永顔口腔 アイスマイル歯科医院院長)からスタッフ教育に携わることを提案され決心した。 どんなことがあってもけっしてあきらめない気持ちをもつことで、多くの道が開けると信じている。 (田中亜生・上海マロクリニック 永顔口腔 アイスマイル歯科医院 歯科衛生士)あきらめない気持ちこそが道を開く。リレー連載 ⑤繋ぐちから繋ぐちから 3月21日(火)から25日(土)の5日間、ケルンメッセ会場(ドイツ・ケルン)において、The 37th International Dental Show(IDS2017、ケルンメッセ/GFDI〈歯科産業振興協会〉主催)が開催された。2年に一度開催される本デンタルショーは、前回を上回る157ヵ国から15万名以上の歯科医療関係者が参集。また、出展企業は59ヵ国から2,305社、展示面積は163,000㎡に及び、世界最大規模といわれるデンタルショーは世界中から注目を集めた。 会場内のそれぞれのブースでは、今回の開催にあわせて発表する最新の機器や材料などの展示や実演をはじめ、エンターテイメント性の高い演出が見られた。なかでも最新機器に関しては、近年日本において著しい普及をみせるデジタルデンティストリーの流れはさらに進んでいることが感じられ、CAD/CAMシステム、口腔内スキャナー、3Dプリンターなどが展示されたブースは多くの人だかりができていた。予防歯科関連のブースでは、実際に体験を希望する参加者に整理券を配付するなど長蛇の列ができていた。 また、日本企業においては海外に支店をもつ企業のほか34社が出展。積極的にアピールする姿も見られ、世界初となる製品を発表した企業のデモンストレーションは好評を博し、多くの関心を集めた。 2年に一度の自社製品を歯科医療関係者に直接アピールできる絶好の機会とあってか、会場周辺および会場内に設置された視覚に訴える巨大広告やラッピング広告などに注力している様子もうかがえた。 次回はきたる2019年3月12日(火)から16日(土)の5日間、同会場において開催される予定。15万名以上がドイツ・ケルンで歯科の潮流を体感The 37th International Dental Show多数の来場者で賑わう会場の様子。マイクロスコープを当たり前に使用する時代がきてほしい 日本の歯科界におけるマイクロスコープ治療の第一人者である鈴木真名氏(東京都開業)。現在では氏のコースに参加する海外の受講者もいるほどだ。なぜマイクロスコープにこだわり続けてきたのか。本欄では、マイクロスコープ治療歴20年を振り返っていただき、マイクロスコープを用いた臨床に対する想いをうかがった。鈴木:1997年にマイクロスコープを臨床に導入してから今年で20年が経過しました。振り返ると、私が師事するマイクロスコープの第一人者のDr. Dennis Shanelecのマイクロサージェリーの講演に感動して導入したことがきっかけです。当初はまわりの友人たちから「変わり者」扱いされていましたが、現在ではその友人のほとんどが臨床現場でマイクロスコープを導入しています。近年では、私が理事を務める日本顕微鏡歯科学会の会員数の増加や、昨年開催された第23回日本歯科医学会総会のシンポジウムにおいてもマイクロスコープがテーマとして取り上げられるなど、ようやく日本の歯科臨床におけるマイクロスコープの評価が高まってきたことに対してとてもうれしく思っています。 なぜ、マイクロスコープが必要なのか。答えは単純明快で、肉眼では見えない細部まで明瞭に見える情報量の多さです。私たちの臨床では手指の感覚や視覚が非常に大切である一方、肉眼で見えない部分は術者の経験や感覚などの予測に基づいて治療やメインテナンスを行っているのが現状です。その結果が時として予後不良を引き起こす原因でもあります。しかし、マイクロスコープを使用することで、正確な診断や最小限の侵襲で治療を行う精密な歯科診療ができ、ひいては患者さんにより良い歯科医療を行うことにつながっていくわけです。 時間とコストの問題に関しても、治療時間の短縮化や再治療の減少など、短期的ではなく中長期のスパンで考えればおおいに貢献できます。私もマイクロスコープを導入した当初は普段の手の動きと拡大視野下の違いに戸惑いましたが、トレーニングを積むことでだれでも使いこなすことができるようすずき・まさな1984年、日本大学松戸歯学部卒業。1989年、鈴木歯科医院開業(東京都葛飾区)。2008年、鶴見大学歯学部口腔顎顔面インプラント科非常勤講師。2009年、日本大学松戸歯学部客員教授。日本顕微鏡歯科学会理事。になります。当院は歯科医師だけでなく歯科衛生士によるメインテナンス時にもマイクロスコープを使用していますし、1つ1つ確実な治療を行えばトータルとして上達も早くなります。また、加齢にともなう視力の低下が歯科治療に影響することがありますが、マイクロスコープを使用することで歯科医師の寿命を延ばすことにもつながります。 今後より精度の高い歯科医療が求められるなかでマイクロスコープは必要不可欠な機器となります。歯学教育をはじめ、臨床現場でマイクロスコープの活用が当たり前となる時代が一日でも早く到来することを願っていますし、日本から世界に向けてその有用性を発信していきたいと考えています。マイクロスコープの普及に取り組む臨床家鈴木真名東京都開業

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