新聞クイント2017年6月(お試し版)
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2017年6月10日(土) 第258号2 今月のニュース学 会 「通勤片道40分ならよかろ」と、南阿蘇村に念願の家を建て住み始めて一年。昨年4月の熊本地震によって、通勤時間は往復で2時間半になってしまった。しかも標高500mからいったん1000mまで上って80mまで下るため、気圧の影響で耳抜きしながらの通勤となった。トンネルは復旧したが道はあいかわらずカーブと上り下りが激しく、自分で運転していても車酔いするほどだ。 家には帰れず地震6日後に迎えた誕生日、ケーキ屋はどこも開いてない。水道が復旧した姉宅に避難し、姪っ子手作りのカレーと肩もみで祝ってもらった忘れられない誕生日になった。女子は癒し上手、甘え上手、つまり「受援力」が高い。 あちこちの避難所で、女子力が発揮されている避難生活を垣間見た。そして肥後の女は我慢強い。「自分自身は大した被害はなかったので他の人を支援しなきゃ」という、いわゆる「震災ハイ」を過ぎると、「いやいや自分も被災者、こんなに動き回って疲れ果てて、そろそろ自分を癒さなきゃ」と自己中心期を迎える。録りためていた連続テレビ小説「とと姉ちゃん」のイケメン俳優に癒されていると、「いやいや、こんなことやってる場合じゃない、困っているところに行かなきゃ!」と再度動き出す。女子は気まぐれだ。 医療者はみずからを支援者と思う傾向が多いため、被災地の医療機関のスタッフはストレスにさらされて疲弊する。当院では、地震直後より全職員対象のメンタルヘルスチェックを行った。項目は身内が亡くなる、家が損壊する、家族が危ない目に遭う、地震そのものへの恐怖などである。かくいう私も夜中余震で目覚めると、そのまま朝まで眠れない日が数か月続き、ハイリスク者だった。1年後のチェックではローリスク者となり安堵したが、逆に1年前より点数が高くなった者もいる。 自治体の復興計画は女子の視点が少ないと感じる。子どもはのびのびと、高齢者が穏やかに暮らせる社会。「復興のシンボル」は立派な建物などではなく、花や動物、心地よい音楽がいい。 (山口彩子・菊陽病院歯科 歯科医師)復興計画に女子の視点を。リレー連載 ⑥繋ぐちから繋ぐちから歯科診療支援システムを監修した臨床家窪田 努京都府開業 5月11日(木)から13日(土)の3日間、福岡国際会議場(福岡県)において、第60回春季日本歯周病学会学術大会(西村英紀大会長、栗原英見理事長)が「歯周病学の挑戦~サイエンスとヒューマニティの調和」をメインテーマに掲げて盛大に開催された。 12日(金)から2日間を通して、海外講演、特別講演、鼎談、シンポジウムのほか、学会学術賞受賞記念講演、倫理委員会企画講演、認定医・専門医教育講演、歯科衛生士教育講演、歯科衛生士シンポジウム、市民公開講座(エルガーラホールにおいて5月26日に開催予定)、ランチョンセミナー、国際セッション口演、一般口演、歯科衛生士口演、各種ポスター発表、企業展示など数多くの催しが行われた。 なかでも鼎談「歯周病学発展の歴史を語る―時代を切り開いた人物と業績」では、吉江弘正氏(新潟大学教授)、永田俊彦氏(徳島大学教授)、和泉雄一氏(東京医科歯科大学教授)、そして最後に栗原英見理事長(広島大学教授)が登壇し、歯周病学の発展と歴史が語られた本邦の歯周病学を回顧したリレー講演が行われた。文献の引用件数や治療術式、病態の分類などを吟味し、この領域の7名のレジェンドを選出(Glickman、Löe、Socransky、Lindhe、Genco、Page、Offenbacher)。その人物像や代表論文まで網羅したもの。さらに本邦の歯周病学の発展に寄与した海外の人物など、近代歯周病学の歴史を振り返った。 メインホールでは会場内立ち見も見られ、他会場にサテライトが設けられるなど、終始盛況となった。 次回はきたる12月16日(土)、17日(日)に京都国際会議場において、60周年記念京都大会が栗原英見大会長(広島大学教授)のもとで開催予定。第60回春季学術大会が終始盛況となる(特非)日本歯周病学会挨拶を行う西村英紀大会長。MR技術を活用することで歯科医療技術の向上に貢献したい さる3月、ドイツ・ケルンで開催されたIDS2017で株式会社モリタが発表した世界初となる「MR(複合現実)技術を活用した歯科診療支援システム」は、その後日本においても数多くのテレビや新聞・雑誌などで取り上げられ、高い評価を得ている。本システムの監修者である窪田 努氏(京都府開業)は、デジタル化が進む歯科界の現状と将来を見据えて今回の開発に至ったのか。本欄ではその経緯と想い、そしてMR技術の可能性に迫る。窪田:今回のIDS2017において、デジタルデンティストリーの分野は多くの製品が発表されていました。世界だけでなく日本においても、今後はCTのさらなる普及と口腔内スキャナーの導入が進むことは明らかでしょう。 しかし、歯科を取り巻くデジタル化の現状は、これまでアナログであった工程がデジタル機器に置き換わっただけであり、スマートフォンのような革新的な技術とは言い難いです。たとえば、パノラマからCTに変わっても、モニタ上の画像を見た術者の頭の中で患者さんとCT画像を重ね合わせて治療を行っています。また、口腔内スキャナーによる光学印象は、その場で支台歯の確認ができず、歯科技工所にデータを送信するだけです。デジタルデータは連携させることが最大の特徴であるにもかかわらず、単体でしか活用されていません。 今回のシステムの画期的なことは、「口腔内の歯」と「CTデータ(DICOM)、CADデータ(STL)」を三次元的に重ね合わせ、歯髄や下歯槽管、理想的な支台歯など肉眼では見ることのできない部位の必要な情報を見ながら治療ができます。MR技術は、あらゆる角度から治療に必要な情報が追随して歯と重なって表示される「可視化」と、実際に歯に触れて治療が行える「可触化」によって、術者の経験や勘に頼らずだれにでも正確で安全な治療ができるようになる可能性を秘めていることです。 歯科医師国家試験に合格した知識はあっても、臨床経験が浅い歯科医師が一日でも早く即戦力となるためには、もっている知識を手に伝えてカタチにくぼた・つとむ1990年、大阪歯科大学卒業。1993年、京都市左京区にて開業。株式会社モリタとリアライズ・モバイル・コミュニケーションズ株式会社が開発した世界初となるMR技術を活用した歯科治療シミュレーションシステムを歯科医師・芳本 岳氏とともに監修。できるトレーニングが必要不可欠です。本システムはその経験の差を少しでも縮めることができる歯科治療技術の標準化に寄与できると思っていますし、卒前教育はもちろんのこと、卒後教育にも十分活用できます。 本当の意味でのデジタルデンティストリーの実現を目指し、MR技術を活用することで歯科医療技術の向上に貢献できればと考えています。 最後に、2014年12月に本システムの同じ監修者である芳本 岳先生(京都府)と出会えたことで私の考えていたイメージがより具現化されました。そして株式会社モリタの森田晴夫社長にご理解・ご支援をいただき、開発できたことで現在に至っています。関係者の皆様にこの場をお借りして感謝申し上げます。

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