新聞クイント2017年7月(お試し版)
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2017年7月10日(月) 第259号2 今月のニュース学 会 熊本地震から1年が経過し、自分自身を取り巻く状況や環境が大きく変化していることに気づく。あの時の記憶は、余震が起こるたびに恐怖となって襲ってくるが、日常はずいぶんと穏やかになったように感じる。そう感じることができるのは、地震によって損壊した私の実家の補修工事が終わり、ひと段落したからに過ぎない。いまだ仮設住宅やみなし仮設住宅などで暮らし、これからの生活に対する不安や孤独に苛まれる日々を余儀なくされる方々がいる現状も忘れてはならない。 震災後に行われた研修会での中久木康一先生(東京医科歯科大学)による「仮設住宅に入ってからのケアの重要性」のお話は、口腔支援活動を継続する大きなきっかけとなった。地元・御船町の保健センターや地域支え合いボランティアセンターの方々の協力のもと、「お口の健康教室+なんでもお悩み相談会」を仮設住宅の集会所で行った。お口の健康教室については、参加者の知識が想像以上に豊富だったため、質問に対する自由回答形式で行った。お悩み相談会は地元住民から「上も下も入れ歯で、歯がなかけん。なんば相談すればよかっだろか?」と参加者の笑いを誘う質問など、和やかな雰囲気となった。また、東日本大震災後の支援活動を継続されている高井 徹先生(埼玉県開業)よりご提供いただいた被災者のメッセージ入りアメニティセットや全国から集められたホームケア用品を多くの参加者に手渡し、地域のコミュニティ活動の充実を図ることができた。 震災後から行ってきた口腔支援活動は、多くの方々のサポートのおかげで成り立っている。なかでも東日本大震災を経験したからこそ「自分にできることを」と、岩手県盛岡市から御船町役場に派遣職員として従事された保健師の荒井愛美さんは、私が歯科衛生士として御船町で活動していくうえで全面的な協力をしてくださり、個々の結びつきの大切さを学ばせていただいた。 「人は、人に支えられて生きれている」。支援活動を通して感じることができた歯科衛生士としての職業を誇りに思うとともに、多くの皆様へ感謝したい。 (本田貴子・フリーランス歯科衛生士)人は、人に支えられて生きている。リレー連載 ⑦繋ぐちから繋ぐちから日本臨床歯科医学会の「顔」山﨑長郎日本臨床歯科医学会理事長、東京都開業 5月28日(日)、歯科医師会館において、日本歯科医学会(住友雅人会長)による日本歯科医学会重点研究委員会公開フォーラムが「子どもの食を育む歯科からのアプローチ~4年間の重点研究から見えてきた課題と展望~」をテーマに開催され、264名の歯科医師、歯科衛生士らが参集した。 まず木本茂成氏(日本歯科医学会常任理事、神奈川歯科大学教授)より開会の辞、続いて住友雅人氏より主催者挨拶があった。その後、特別講演「こども食堂を含めた、だんだんの取り組みから見えてきた今を生きる子どもとその周りのこと」(近藤博子氏、こども食堂「気まぐれ八百屋だんだん」店主・歯科衛生士)、日本歯科医学会重点研究委員会委員らによる講演1「地域歯科医院での気づき―からだは食べ物でつくられ、こころは食卓で満たされる―」(辰野 隆氏、東京都開業)、講演2「口腔機能発達不全を呈する子どもたちとその対応について」(山﨑要一氏、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科小児歯科学分野教授)、講演3「子どもの食と母子関係」(根ケ山光一氏、早稲田大学人間科学学術院行動環境科学科発達行動学研究室教授)、講演4「子どもの摂食嚥下障害とは―症状とその対応―」(水上美樹氏、日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック・歯科衛生士)がそれぞれ行われた。 近藤氏は一人暮らしの高齢者や食事の摂れない子どもらの現状を解説し、もっと密な地域ネットワーク作りを訴えた。その後の各講演では、全国の学校で行われている食への取り組み、治療の必要性がある小児歯科の症例、発達行動学よりみた子どもの自立性と母と子の食の確執、子どもの摂食嚥下障害など、さまざまな子どもを取り巻く食と歯科の関係などが解説された。重点研究委員会公開フォーラムが盛会となる日本歯科医学会多数が参加した会場の様子。インターディシプリナリーアプローチのさらなる強化を目指す 歯科医療は、スタディグループの成長とともに発展してきたといっても過言ではないだろう。このたび、日本最大級の歯科スタディグループSJCD(Society of Japan Clinical Dentistry)が学会に移行した。本欄では、理事長に就任した日本の歯科医療をリードし続ける臨床家・山﨑長郎氏(東京都開業)に学会設立の趣旨と今後の展開についてうかがった。山﨑:私たちSJCDは、南カリフォルニア大学のレイモンド・キム先生から継承された歯科の理念を発展させるために、つねにグローバルな視点をもち、最先端の情報の収集と技術を習得すべく努力を続けてきました。そのコンセプトに賛同する会員も増え、設立時の数十名から現在では約2,000名を擁する組織になりました。 世界に目を向け、歯科臨床を吸収・実践し続けてきた結果、現在では日本の歯科医療技術の高さが世界からも評価され、海外の権威ある学会などで活躍する会員も出てきています。そのようなことから、咬合学を極め臨床で実践して歯科治療の永続性を確立するという、私と本多正明先生(本会副理事長)の創り上げてきた私たちの理念を、スタディグループという枠を越えて国内外に発信し伝えていく責務があると考えています。 本会は、歯科におけるチーム医療を実践するために歯科医師、歯科技工士、歯科衛生士の三者がそれぞれの専門知識を吸収し合いながら、日々歯科医療の向上に励んでいる点が大きな特徴の1つです。これまでの輝かしい歴史が築き上げてきた信頼と確固たる姿を永続的に継承し、さらに発展させうる手法を模索・検討した結果、スタディグループから学会への移行がもっともふさわしいとの結論に至りました。 今後は、本会の最大の特徴でもある専門性をもった各先生方との連携した治療体系、いわゆるインターディシプリナリーアプローチのさらなる強化を目指すべく、これまで以上にグローバルの視点から国内外の大学や学会とも積極的に交流し、より質の高い技術や情報を随時会員と共有したいと考えています。やまざき・まさお1970年、東京歯科大学卒業。1974年、原宿デンタルオフィス開業。SJCDインターナショナル会長。学会への組織移行にともない、2017年5月、日本臨床歯科医学会の理事長に就任。現在に至る。 また、本会が根幹としている地域歯科医療に貢献するための基本コンセプトである診査・診断、治療計画および治療術式の良否を判断するケースプレゼンテーションやディスカッションをより充実させていきたいと思っています。 さらに、学会のプレゼンスを広くアピールするための市民フォーラムなどを開催し、地域の人々や国民に対しても歯科医療の重要性をもっと理解していただけるような環境づくり、そして各地域の会員がより診療しやすい環境も整備していきたいと考えています。 会員の先生方とともに国民の歯科医療に対する知識や意識の向上を目指し、患者さんに目を向けた歯科臨床になるよう学会全体で取り組みたいと思っています。

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