新聞クイント2017年9月(お試し版)
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2017年9月10日(日) 第261号2 今月のニュース政 治 東京・新宿から熊本へ移住した2003年――。熊本弁に抵抗なくなじむことができた適応能力のおかげで結婚、出産を経験。現在も子育て進行形の身ではあるが、休職中の子育てを通して乳幼児期のむし歯予防の大切さや食育、生活環境のつながりなど、想像もしていなかったことを学んだ。 これらの経験をブランクがあるなかでも歯科衛生士の仕事になんとか生かしたいと模索していた2015年、親友の同級生から「母ハハハ歯ネットワーク認定むし歯予防マイスター®」を紹介され、熊本からも発信すべく復職を決意。小児歯科医院で復帰し、活動準備が整い、これからというときの2016年4月、熊本地震が発生した。 本震・余震が続くなか、子どもたちを不安にさせまいと明るく振る舞う母親に徹した。備蓄食料などのおかげで避難所へ行くことはなかったが、断水のためにお米をオレンジジュースやお茶で炊いたり、断水解除後の泥水は泥温泉といって私が率先して浴びたり、不自由な生活を感じさせないように笑顔でいることを心がけた。そのおかげもあり地震から1年が経過した昨今、子どもたちの地震の記憶は、学校が休みで退屈だったということしかないようだ。 地震後、私の中で「やはり復職は難しいのでは……」と迷いがあった。しかし、地震の影響が大きかった益城町子育て支援センターや、仮設住宅の子育て歯科相談で訪問する機会をいただき、その迷いは払しょくされた。避難所ではお菓子ばかりの配給や普段とは異なる食生活、また避難所で子どもが泣いて周りに迷惑をかけないように欲しがるお菓子を与えてしまったことでむし歯にさせてしまったことなど、子どもの健康管理を気にする余裕すらない状況であったことをママたちから聴いたからだ。 生涯の健康維持につながる健口教育の大切さ。乳幼児期が土台となり、これこそがすべての予防へつながっていくことを歯科衛生士として子育て世代へ伝えたい。そして、復興を目指して未来ある子どもたちが健やかに夢へ向かっていくことができるように、母魂で携わりたいと強く感じている。(林田香名・むし歯予防マイスター®歯科衛生士/くすのき子供歯科非常勤)母魂で“健口から健康”へ。リレー連載 ⑨繋ぐちから繋ぐちから口腔内データの普及と利活用推進に取り組む山下茂子㈱デンタルデジタルオペレーション専務取締役 7月20日(木)、ホテル椿山荘東京(東京都)において、日本歯科医師連盟(高橋英登会長)による時局講演会ならびに懇親会が開催され、日本歯科商工協会を中心とする歯科関係者が多数参集した。 本会は、歯科界のさらなる発展のために、連盟活動と併せて歯科関連企業との連携強化の重要性を鑑みて企画されたもの。開会後、来賓として森田晴夫氏(日本歯科商工協会会長)が挨拶を述べた後、高橋会長と山田 宏氏(参議院議員)の講演が行われた。 高橋会長は「歯科の未来は明るい」と題するテーマで、多数の資料とともに健康寿命を達成するためには歯科保健の充実が必要不可欠であることを強調。その中で疾病構造の変化への対応や指導・監査の問題、国民皆歯科健診制度の必要性などを挙げ、歯科を取り巻く諸問題の解決には、政治の力が必要であることを訴えた。 引き続き、山田氏による「政治の力が拓く、明日の歯科界と日本」と題する講演が行われた。講演の中で山田氏は、平成11年から3期11年務めた杉並区長時代に歯科保健の充実に取り組んだことや、自身が座長を務める歯科口腔医療勉強会で取りまとめた安倍首相への提言が、さる6月9日の「経済財政運営と改革の基本方針2017(骨太の方針)」に盛り込まれたことなど、歯科保健医療の充実に向けて精力的に取り組んでいることを披露。最後には、医療費削減に寄与する歯科医療の役割に期待するとともに、「歯科医療機器の海外展開やこれからの成長産業分野にするという気概をもって取り組んでほしい」と、会場に参集した歯科関係者にメッセージが送られた。 その後、別会場にて行われた懇親会では有意義な意見交換が行われた。山田 宏参議院議員が歯科医療の重要性について講演日本歯科医師連盟講演を行う参議院議員の山田 宏氏。口腔内データを利活用することで社会に貢献したい デジタルデンティストリー時代の到来で歯科医療が大きく変革しようとしているなか、歯科のデジタルデータを活用して社会貢献活動に取り組む㈱デンタルデジタルオペレーション(大阪府・十河厚志代表取締役)。本欄では、2017年7月、口腔内データマッチングシステムを開発した同社専務取締役の山下茂子氏にお話をうかがった。山下:超高齢社会を迎えた日本において、医療・介護・健康分野におけるICT利活用の促進が叫ばれていることは既知のとおりです。 歯科領域では、東日本大震災において多くの歯科医療機関が被災し、記録のほとんどが消失したという事例もあり、カルテの電子化が進んでいます。また、2014年度歯科診療報酬改定では、歯科用CAD/CAMを用いた歯科補綴物が保険適用となり、一気にデジタルデータが普及しました。さらに今後は、現在注目を集めている口腔内スキャナのさらなる普及とともに、口腔内のデータ化は加速度的に広がっていくことが予想されます。 当社は、デジタルデンティストリー時代に対応できる歯科技工所を目指し、2006年の創業以来11年間で2万件の口腔内データを取り扱っています。CAD/CAM冠の製作時に用いるSTL形式とよばれるポリゴンデータは、口腔内の歯牙や一部粘膜の形状をデータ化したものです。唯一無二の情報であるその貴重なデータにおけるさまざまな利活用について、検討を進めてきました。 そしてこのたび、すでにデータ化された、あるいはこれからデータ化する診療情報と合わせ、口腔内のSTLデータから身元確認を行う「口腔内データマッチングシステム」を開発しました。 本システムは、口腔内初見や診療情報とともに口腔内STLデータをデータベース化し、主に口腔内STLデータでマッチング検索することが可能です。従来の2次元情報よりも多くの情報を有する3次元情報でマッチングすることにより、正確に紋り込むことができます。これまでの歯科的個人識別(身元確認)にかかる人的ならびに時間的労力を大幅に削減でき、社会貢献にやました・しげこ歯科技工士。㈱デンタルデジタルオペレーション専務取締役。㈱デンタルデジタルブレインズ代表取締役。(一社)大阪府歯科技工士会副会長。女性が活躍できる歯科技工界を目指して活動を行っている。寄与できると考えています。また、懸念事項である個人情報保護の観点では、匿名加工された口腔内データはすでに一部STLとしてデータ化されている点と、それのみでは多くの情報をもたないことから抵抗のない数少ない情報といえます。 全国の歯科医療機関に口腔内データが普及していくことで、口腔内の経時的な変化など口腔の健康管理をはじめ、さまざまな利活用が可能となります。たとえば、認知症の発症予防に寄与する歯科医療が注目されていますが、現在全国で1万人を超えるといわれている行方不明となった認知症高齢者などの身元確認にも活用することが可能です。 今後は、本システムを普及させるために歯科医師会や歯科大学・歯学部とも連携したいと考えています。

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