デンタルアドクロニクル 2011
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16 今社会が一番不安がっているものは雇用の不安定、年金制度の崩壊、政治の迷走である。 どれ一つを取っても国家組織の根幹を揺るがすもので、国民国家の存在を危ぶむところにまで及ぶ大問題である。そんな中にあっても、最重点課題はといえば、まず雇用の安定的提供である。 それにしても、これほどまでの雇用の不安定の原因はどこにあるのか。多方面にわたって、政治家、経営者、労働者が『なぜ』との問いを発して、その解決の糸口なりを見つけなければならない。大げさに言えば、戦後から20世紀いっぱいにかけて、企業と労働者の間には、友好的な関係が築かれて、曲がりなりにも雇用は確保されていたように思われる。しかし、この間の労働者と、今の労働者の決定的な違いを思い浮かべれば、肉体労働者と知識労働者という質の違いに気づくはずである。 すなわち、戦後の経営者は肉体労働者の雇用に対しては、一応成功を収めたが、膨大に輩出される知識労働者の扱いには正直いって当惑しているというのが言いえて妙である。 企業はこれらの知識労働者を吸収するだけの新しい事業の開発ができていない。積極的に企業活動が果たされていないことが、新しい労働市場の創設を妨げている。 次に労働者側について言えば、知識労働者としてのあるべき姿になり得ていない。大学卒業生を知識労働者とみなすとすれば、その知識はあまりにお粗末であり、知識労働者の体をなしていない。いわゆる即戦力とはなり得ないのである。 そういったことを意識してかどうか、大学生のための資格職業訓練所が盛況をきわめている。人よりも優れた資格保有者にならんがためである。これまでのアルバイト中心の学生生活から知識労働者のスキルを磨くことにシフトしてきたのである。必要が知識労働者の意識を変えたとすれば、それはそれで意味のあることである。 ところで、今回アドクロニクルの特集テーマは『生涯教育はいかにあるべき』であるが、それはプロフェッショナルに向けた警鐘であり要望でもある。 もともと、プロフェショナルの名に値する職業は神学、法学、医学であり、それに従事する人々には、高い専門性と深い倫理観が求められている。他の職業とは一線を画した崇高な職業として位置付けされている。それがゆえに日常的な研鑽は当然の義務として社会に了解されているのである。したがって、これらプロフェッショナルの大学教育の卒業には、GRADUATE(卒業)という言葉より、COMMENCEMENT(今日から始まる)があてられるのである。 医学が進歩発展をするのは新しい知識が生まれるからであり、それを実戦的な専門知識として臨床に取り入れるよう指導するのが生涯教育の目標のひとつである。そして各生涯教育機関(研修会)は、各種、各様に対処しているのである。その様が各指導者によってこの特集に述べられているのは、読者にとっては貴重な情報となっている。 知識は常に賞味期限を持っているものであり、ゆえに置換される。生涯教育はこれに大いに寄与するものである。知識社会においては、物事をよく知り、活用することが尊敬を受けたり、裕福になったり、社会的地位を獲得する最短の道である。歯科医としての『ありよう』を考え、絶えず知識を磨き、鍛え、育まなければならない。怠れば敗者となるばかりである。今こそプロフェッショナルを真剣に考えるべきときではないだろうか。 クインテッセンス出版株式会社 代表取締役社長 佐々木一高「歯科研修・セミナーで学ぶ」に寄せて

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