デンタルアドクロニクル 2012
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河原英雄×松岡金次用のものを作ろう、総義歯をしっかり作れる若手を育てよう、そうすれば「8028D」の可能性がさらに高まる……。松岡 私も微力ですが、河原先生のお考えに賛同し、若い技工士さんにフルバランスドオクルージョンによる総義歯の作製を伝えていきたい、それによって閉塞状態にある歯科技工界に明るい将来がくることを期待しているんですよ。 歯科治療の目的は「機能の回復」にある河原 私は四十数年間、歯科医院を開業してきて、最近感じていることは「歯科の一番の役割は、何らかの原因で失われた口腔機能を回復する」ということです。今、歯科は「お口の中をきれいにしましょう」とか「寝たきりの人を、誤嚥性肺炎から守るために清潔にしましょう」などといっています。 これはこれで大変大事なことですが、病院に出かけていって、入院している人の口腔内をきれいにしましょうとか、訪問診療で頑張っている間に、それを病院がすぐに真似しますよ。私が一般病院の院長なら、「患者さんのお口の中をきれいにしなさい。そうしたら肺炎が減ります」といって、すぐ看護師さんにブラッシングを学ばせたり、新たにスタッフを雇って歯ブラシを実践させます。そして、保険の点数化をはかるでしょうね。 ですから、そうしたことは大切ですが、それを歯科の金看板と思っていたら、い河原 無歯顎の患者さんをフルバランスドオクルージョンで噛めるようにすること。ですから、私は入れ歯を入れたら、目の前で噛ませるという訓練を必ずやっています。雑炊やお粥などのレトルト食品を与えて、帰宅の際に練習をしてもらいます。保険でできる総義歯でも、十分訓練をすれば、りんごやピーナッツが前歯で噛めるんですよ。全然、入れ歯が外れたりしませんから、皆さんに喜ばれます。 もちろん、私もno one is perfectで、全部がああはならないですが、1人でも多くそうなるように入れ歯を作ることが大事だと思って頑張っています。 それには、歯科医師と歯科技工士、そして患者さんがお互いに切磋琢磨する、そんな関係が作られていないとダメですね。入れ歯は、歯科医師と歯科技工士、そして患者さんの共同作業なのですから。歯科医師だからといって、上から目線で接するのは大間違いです。お互いにあるものを持ち寄って尊敬しあうことが大事です。 若くて貧しいときはお互いに頑張るけれど、あるところで少し豊かになってしまうと、途端に「私は保険の治療はやりません」とか「保険の技工はお断り」となるのが一番悲しいですね。松岡 保険外で出してくれた先生が2人おられて、1人の方は1ケース、もう1人の先生は2ケース出されたのですが、患者さんは本当に満足されていました。電話で「巻き寿司ののりも噛める。よかったよ」といわれて、私もうれしくなりました。ずれ歯科は行き詰まります。歯科の一番の特徴は何かといったら、噛めなくなった人を噛めるようにすること、口腔機能の回復です。これは、お医者さんでは絶対に真似できません。もう一つは、寝たきりの人にいくら注射や薬やらで栄養をあげても、自分の口で噛みながら唾液に混ぜて食べないと、人間、本物の元気にならないんですね。そういうことで、私は「8028D」、80歳で歯が1本もなくても、デンチャーを入れて美味しく食べられる、それでその人が元気になれるような世の中にしたいと思い、松岡先生と三十数年間、フルバランスドオクルージョンを与えられる入れ歯づくりを続けてきています。途中、ソーシンブレードやレビンブレードティースを使って、ちょっと横道にぶれたことがあります。それらはそれで長所はたくさんありますが、最終的には「デンチャーはフルバランスドオクルージョン」ということに落ち着いたんです。松岡 フルバランスドオクルージョンですと、天然歯のように前歯で噛み切って、臼歯ですりつぶすという咬合が、きれいに与えられます。私が技工学校で習ったのは、咬合面にカーボンペーストを置き、自動削合をして、ウシの歯のようなものを作ることでした。 でも、フルバランスドオクルージョンでの並べ方は、咬合もきちんとできますから、本当にいいと思います。無歯顎の人でも、それで十分噛めるし、審美的にもきれいな入れ歯になりますね。松岡金次(まつおか きんじ)福岡県出身。1973年九州歯科技工士学校を卒業。同年花田歯科医院(香椎)に勤務。1976年セラミック・デンタル・井川に入社。1979年IDA研修を受講。1996年セラミック・デンタル・井川を退社。1997年ヴィーナス・デンタルを開業。2000年クワタ・カレッジ研修を受講。日本歯科技工士会会員・日本顎咬合学会会員。河原英雄(かわはら ひでお)医学博士。1941年福岡県に生まれる。1967年九州歯科大学を卒業。翌年、福岡市にて河原英雄歯科医院を開業。2002年、大分県佐伯市にて歯科河原英雄医院(完全保険医)を開業。奥羽大学歯学部客員教授・九州大学歯学部臨床教授・日本審美歯科協会会長・日本顎咬合学会会長などを歴任。著書に『デンタルイマジネーション』『家庭の歯学』『歯科開業学――親父の小言』(いずれもクインテッセンス出版刊)などがある。23

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