デンタルアドクロニクル 2012
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河原英雄×松岡金次安いとか高いとかいうのは後の問題で、まず若い先生方は保険で一生懸命やろう、それでわからないことがあったら勉強しましょう、というのが私の願いです。 今年の6月にある第30回日本顎咬合学会のテーブルクリニックで、松岡先生はその排列などを実際に見せますし、1月28日、福岡の九州歯科大学の同窓会で講演をしましたが、松岡先生に排列の部分を手伝ってもらいました。松岡 排列はそんなに難しくはないです。ただし、歯肉がどれだけ見えなくなるか、上唇線を描いていただいて、正中線と咬合平面の線も描いていただければありがたいです。河原 ただ、歯を並べるための蝋堤、基礎床などは、患者さんの顔を見ることができる歯科医がつくるべきなんです。技工士さんにもよく「あなたたちは最初から蝋堤をつくるでしょう。それを歯科医が作るようにしてもらいなさい。そうしたら見かけのいい入れ歯ができます」といっています。松岡 よく基準をいわれるんですね。上顎の中切歯遠心切端から齦境移行部なら22ミリ、下顎なら18ミリとか、ハミュラーノッチから7ミリとか、レトロモラーパッドから3分の2とか、その平面で蝋堤を作ってくれといわれるけれど、いつも「その基準どおりやって、それで患者さんの口にぴたっと合うのかな?」と思うんですね。私の排列は、いつもこの仮想咬合平面より後ろを少し上方に平面を想定しています。患者さんの「顔の見える歯科医」になれ!河原 その歯が歯周病でなくなったものかどうかかで、歯槽の吸収が全然違いますからね。解剖的基準で「ここから何ミリ」とか「上顎のあそこから何ミリのところに前歯を」とかというけれど、すべてはそうではないようです。それはあくまでも標準です。もっと顔映りのいい入れ歯をつくろうと思えば、その標準を入れていいから、もう1回歯科医が審美の目で見ることです。それで、出すぎていたらちょっと削るとか、足りなければちょっとそこをユーティリティーで盛るとかすればいいんです。 これは歯科医と患者さんの問題です。そこは、技工士さんの模型上では見えないので、歯科医が見なければいけないのです。く、歯をなくさないためにあるのです。そして、その先には人の健康と結びついた口腔機能が必要だということです。不幸にして、歯がなくなってしまった患者さんには、十分噛める補綴物を作ってあげることで、機能回復をはかるべきです。松岡 たとえば、私がつくった入れ歯で、患者さんの認知症が改善に向かっているということを、河原先生のところで初めて見て、「咬合で、ここまで変わるんだな」と感動しました。それだけに「入れ歯はなお一層きちんと作らないといけないんだな」と思いました。やはり患者さんのいる臨床現場に立ち会って見させていただくことは、大変な勉強になりました。また、患者さんの家族の方が「高齢者が健康で、病院にも行かないことは、立派な社会貢献です」とおっしゃっていたのが、印象的なことでした。河原 臨床の中では、教科書のとおりじゃないようなものがあるんですね。私は河邊先生のおっしゃった「顔を見て作る」ことを大事にしていますから、患者さんに合わせて、患者さんの顔を見て、患者さんの口の中を見るんです。 私は大学時代から写真部にいて、写真に凝っていましたから、「顔を見て作る」といわれたとき、感覚的にその言葉が頭の中に入ってきていました。「義歯には、歯槽頂間線法というちゃんとした法則がある。しかし、そればかりじゃないぞ。河原、顔を見て作れ」といわれたことが、本当に身にしみて理解できました。ぜひ若い先生方にも、この感覚を理解していただきたいものです。私の総義歯製作の講習会がもし開催できたら、その点もキーワードにしたいと思っています。つまり「顔の見えるドクター」になれということです。 1973年に、私が東京の河邊清治先生に習ったとき、「河原、入れ歯は顔を見てつくれ。歯槽頂間線だけがすべてじゃない。それも大切だけれど、顔を見て作れ」と。あの先生は志賀直哉の主治医で、著書の中に写真もありましたが、「顔を見て作れ。これが志賀直哉ぞ」といわれたことがありましたね。 入れ歯は、噛み合わせの高さ、歯並び、歯の色、スマイルラインとかは、歯科医と技工士さんとの共同作業ですね。総義歯の場合、90%以上は技工士さんがやります。技工士さんがわかっていないとできません。あとの10%が歯科医の仕事で、患者さんの本来の顔をイメージして、顔の形とか、噛み合わせの高さを決めるのです。松岡 以前に、咬合採得のときに、河原先生が「上の歯を前に出してください」と、ゆっくりした口調で患者さんにいっていたのを聞いてびっくりしました。患者さんは下顎の歯を無意識に前方で噛もうする方が多いんです。ですから、上の歯を前に出すということは、患者さんは下顎を後方に移動させているんです。歯科医の先生としては、このことがわかっていない方が結構いらっしゃるようです。 結局、また「バイトが違う」とかいって返してきてしまいますから、またやり直すことになり、私たち技工士も大変ですが、患者さんも入れ歯がなかなか仕上がらず、大変な思いをしてしまうことになります。河原 結論的にいいますと、歯科医療の原点は「機能の回復」、つまり補綴です。今は、予防歯科とかMIだ、削らないなどといわれて、補綴することがいかにも罪悪のような感じですけど、補綴がないと歯科の特徴はないですよ。歯科のターミナルは補綴です。ですから、もう一度、歯科は補綴を見直すべきです。インプラントも、外科じゃなくて補綴の前処置ですから、補綴学イコール機能回復と考え、全身の健康と補綴学を結びつけていくことが、歯科の特徴を表すことになると思います。 予防は何のためにあるかといったら、口腔機能を失わないためにあるんです。歯がなくなったら噛めないようになりますから、予防というのは、むし歯に罹患しないためとか、歯茎がきれいになるためじゃなスペイシー咬合器:スマート(YDM製)、発売:モリタ。25

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