デンタルアドクロニクル 2013
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巻頭大特集1 歯科医療が目指す「生活の医療」とは12住友:現在は、部位の問題によるデータはあまり重要視していなくて、数でもってきているわけですか。倉治:それに関して最近は、市民フォーラムなどで、大久保会長が象徴的な写真を使っています。前歯が上下とも4本ない口腔内写真を見せて「この人は8020です。皆さん、こんな状態でいいと思いますか?」とたずねるんですね。会場の人たちが「嫌だ」と反応すると、「これからは数字だけではなくて、どの歯が残るのがいいのかといったことも含め、「8020」をさらに研究していきます」といったことをお話しされています。安井:大久保先生は、いつも新しい視点を1回ずつ入れていくので……(笑)。佐々木:「8020」という成功例を踏まえて、これから「生活の歯科医療」をどのように実現したらいいのだろうかを、もっと考えなければならないと思っています。 大久保先生は本を何冊かお書きになっていますが、日本歯科医師会のメンバーすべてが読んでいるとは限りませんから、「生活の歯科医療」を普及させるためには、「8020」のような、もっと具体的な、リズムカルな標語をつくる必要があります。その辺は、皆さんどうお考えなのでしょうか。安井:「生きる力を支える生活の医療」という言葉で表現されていますが、このキャッチはちょっと長いですね(笑)。また、「生きる力」というと、平成10年に学習指導要領が改定されたときに出てきた「生きる力」――問題解決型の課題を発見して主体的に解決するというものと、ごっちゃになっているところもあるので、「生きる力」というよりは、「生活の質」というものを、多くの人にわかるように表現することがポイントになると思っています。 「生活の質」つまりQOLは、もともと障がい者の領域から出てきている概念ですが、大久保先生がいっている「生活の質」は、もっと高いレベルのところにありますから、それを適切な言葉で表現できないかなと思うんですよ。そうでないと、ケアもキュアも生まれてこないわけですから。住友:「8020」を達成していないと、生活ができないような雰囲気がかもし出されていますから、「8020」を達成していない人たちを、どうフォローするかが問題です。その部分にも「生活の歯科医療」が大きくかかわってくるのでは……。 ですから、達成すれば「生活の質」という付加価値の部分はできるけれど、達成していなくても、一定のレベルを保つために歯科がどうフォローするか。「8020」を達成できなかった人たちに、どう手を差し伸べていこうかという動きがあるのでしょう。倉治:北九州スタディー(1988~1995)によれば、無歯顎であったとしても、ぴったり合った入れ歯が入っていると、歯が残っている人とQOLがほぼ変わらない、というデータがでています。つまり、歯科医師にとってのもうひとつのゴールは、歯が残っていない人にも「8020」を提供することともいえますね。住友:それは、私の中で想定できているものがありますが、要するに「8020運動」を推進するにあたっては、両面がなくてはいけないということです。達成されなかった人はどうすればいいのか、そこをもう少し日本歯科医師会が強調すると、受診率も上がってくる……。 今は「歯科治療をしっかりしましょう」というのと「8020」とが別になっているんです。だから、そこをうまく一体化にすれば、すごい……。大久保先生は多分そこに気づいて、「生活の歯科医療」を打ち出してこられたんだと思います。安井:「20」という数値は怖いところがあります。もともとは「食べる機能」から出てきたという点を忘れてしまって、数にとらわれてしまうんですね。機能の回復は義歯でもできるわけですが、数の回復はインプラントでもない限りできないのですから、そこの違いをきちんと理解していわないと、数字がひとり歩きしてします。 肝心なことは、「8020」を維持している人たちと同じ機能を持っていることが大事で、歯がなければ入れ歯を入れたり、ブリッジをしたらいいんですよ。そういう話でないと、万人を幸せにできないわけですから。万人を幸せにできるから、歯科医師の価値がそこに生まれてくるわけです。そういう方向性を出していくことはすごく大事です。住友:両面があるのに、それを分けて考えてしまうからいけないんですよ。在宅歯科医療こそ歯科医の果たす役割が大きい佐々木:最近、大久保先生のお話を聞かせていただいておりますと、在宅医療、介護や訪問診療に非常に力を入れて、「歯科医師が歯科医師たるゆえんというのは、そういうところに見い出さなければいけないんじゃないか」といっておられます。 これだけ高齢者が多くなって、寝たきりの人も多くなるというときは、もっと医科と連携した、歯科だけができることをやらなければならない。専門的口腔ケアはもちろん、義歯を入れる、噛み合わせを治すなど、まさに歯科医がこれからやっていかなければならないところがたくさんあるのですから……。倉治:そのあたりについては、昨年出版した『歯科医師会からの提言』(3冊)でも、情報発信しております。佐々木勝忠先生(岩手県奥州市)の症例では、肺炎で入院中に低栄養で寝たきり状態だった88歳の男性患者さんが、がたついた入れ歯を噛めるようにきちんと直してあげたら、低栄養を脱し、2週間後には車イスから立ち上がり、2ヵ月後にはすたすた歩き、3ヵ月後には

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