デンタルアドクロニクル 2013
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巻頭大特集1 歯科医療が目指す「生活の医療」とは14か高齢者の食品、たとえばステーキの味がしてステーキの形をしたものを開発しているところがたくさんあります。離乳食と違い、あれの非常に難しいところは、子どもは経験がないから、離乳食はやわらかくてもいい。ところが、レンコンをかじるときは、レンコンをかじった感覚がお年寄りのイメージとして残っています。ですから、ちょっと歯ごたえがあるような感じがないと、ただやわらかければいいというものじゃないところに、この分野の難しさがあるんだそうですよ。 でも、そういうものを歯科の領域から提供しなければダメですよ。ただやわらかいものを提供すれば済むというレベルではなく、大根の噛みごたえ、肉の噛みごたえというのも口で覚えているので、それをどういうふうに再現するか。安井:そうですね。この間も、キューピーの方とお話ししたら、そういう食品で一番難しいのは五感に訴えるものをつくることだそうです。五感教育をやればやるほど、高齢になったときに五感に訴えてくるわけですよ。ですから、「いい香りだね。パリパリっていい食感だね」というのを再現するのがすごく大変だというお話でしたね。住友:そこが、歯科はすごく貢献できる分野なんですよ。安井:そうした問題も、自分の歯が残っていればいいわけで、あとは入れ歯でもいいわけですからね。そこは口腔ケアをきちっとやれることが大事だと思います。高齢になっても歯を健全に残していくためには、「食べる」という機能とあわせた教育をしていかないといけないと思うんですね。 口腔内を清潔にするというか口腔ケアに関しても、今までの口腔ケアは、どちらかというと健常者に対する口腔ケアが多かった。私は、相当早い時期に地域で寝たきりの住民を回っていたのですが、ベッドの上に昼ご飯が用意されていて、昼になったらそれを食べるといった生活をしている中で、この寝たきりの方や介護している方に、どうアプローチしたらいいんだろうかと、ちょっと考えさせられました。 口腔ケアは日常のことなんですよね。したがって、あまり大きな期待を与えてしまうと、全部私たちがカバーしてくれると思われてしまいかねませんから、ケアをする人たちをどう育てていくかも考えなければなりません。歯科医師や歯科衛生士が、すべてをカバーなんかできるわけではないから……。住友:家族ということ?安井:家族も含めて……。でも、昼間はみんな働きに行っていないんですよ。寝たきりの人は1人でいるわけです。ですから、右手にヤクルトを持って、左手にどらやきを持って、そうやって食べている人たちにどうやってケアをするの、ということもあります。そういうところも「生活の歯科医療」だと思うんです。私たちがかかわって「よかった」と思う人が出てくれば、それでニーズは発生してくるけれど、寝たきりの人はほとんど1人ですからね。住友:そこで、ここにかかわる歯科医師、歯科衛生士が多くいてもいいわけですよね。安井:いや、足りないんですよ。住友:もっと歯科医師が出向いてくれればいいのですが、在宅歯科診療というと、今までの診療室内でのように、削ったり抜歯したりするものだと思っているところが、逆に敷居が高くなっているのかな。 前述のポータブルの歯科治療器の話ですが、たとえばモニター装置本体を持っていかなくたって全身管理ができるでしょう。それは小さな検出器をつけて、それをスマートフォンやタブレットで地区のキーステーションに飛ばせば情報が即やりとりできる、そういう時代になっているんです。今この患者さんはどういう全身状態なのか。ヨーグルトを飲みながら寝ている人に、ウオーターピックのようなもので口腔ケアをやろうという話が、平成22年の改定時に出てきました。これはいったんボツになりましたが、まさにウオーターピック的なものも使っての在宅歯科診療も、ありえるということですね。 確かにこのようなものでも、もちろん誤嚥させてはいけないけれど、うまくコントロールすれば大変いい口腔ケアができます。いわゆる専門的な口腔ケアの中には、そのレベルのものも必要かと思います。そうなってくると、みんながもう少し頻繁に出て行けるんじゃないかな。診療室で健常者の治療をイメージしているから、なかなか展開しないのではないでしょうか。安井:私も実際に行って経験しているのですが、バイタルをチェックして、それから口腔内を見てとなると、時間がすごくかかるんです。一般診療どころじゃなく時間がかかって、午前中1軒か2軒、午後も1軒か2軒、それでもうへこたれるくらいに疲れてしまいます。住友:経営的にも成り立たない?安井:きっと成り立ちません。ですから、歯科医師、歯科衛生士がどうかかわるかということを明確にしていかない限り、「8020は大成功しました。だけど、その後のケアはどうするんですか?」という話になっちゃいますね。超高齢社会では「生活の歯科医療」が大きな役割を果たす佐々木:「生活の歯科医療」というのは非常に幅が広いから、それを「こういうふうにやったらいい」と、ひと言で論じることはできないと思いますが、それを実現するために何らかの努力をしないと歯科の進歩もないし、歯科医師のある意味での存在理由もなくなるのでは……。安井:そうですね。歯のない人に入れ歯を

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