デンタルアドクロニクル 2013
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89(株)松風─2013年誌上シンポジウム「バイオアクティブ機能性歯科材料」を探るそれらのイオンが歯質に取り込まれ、エナメル質の酸に対する抵抗性が増すことになる。萌出間もない歯は、酸に対して弱いが、食事のなかで取り込まれるさまざまなイオン置換により、耐酸性の向上が認められる。そのため、小児ではう蝕が進行しやすいが、成人のそれは小児と比較すると緩やかである。天然のエナメル質、ハイドロキシアパタイトなどの酸に対する溶解性の指数を、溶解度積恒数という(図4)。この値が小さいほど酸に対して溶解しにくいこととなるが、ハイドロキシアパタイトのOH基がFに置換したフルオロアパタイトは、少なくとも100倍以上の耐酸性を有することとなる。CaがSrに置換すると、さらなる耐酸性が期待され、これはFと競合することがなく、付加的な作用として期待できる。 S-PRGフィラーから溶出する イオンによる緩衝作用と歯質強化 S-PRGフィラーは、松風社が開発したPRG技術により作成されたフィラーである。基本的には、表面改質層とグラスアイオノマー相を有し、グラスアイオノマーセメントの特徴であるフッ素徐放性と機械的強度を兼ね備えたフィラーである(図1)。このフィラーを水溶液中で撹拌すると、さまざまなイオンが溶出する。S-PRGフィラーを乳酸水溶液に添加すると(図5)、撹拌して1分後にはpHは3.9から7.0まで上昇し、FやSrなどのイオン放出は短時間で認められた。このようにS-PRGフィラーは、酸緩衝作用が極めて強いことから、う蝕細菌が糖代謝過程で産生した酸を速やかに中和し、酸による脱灰からエナメル質を守る作用が期待される。また、フィラーから徐放されるホウ素(B)は、抗菌作用を有しており、S-PRGフィラーを含有するレジンの表面では、バイオフィルムの形成が抑制されるとの報告もある。また、Fもミュータンス菌の糖代謝を直接阻害することも知られている。このようにS-PRGフィラー由来の複数のイオンの協調作用により、ミュータンス菌のエナメル質表面への生着、糖代謝阻害による酸産生抑制、酸緩衝能による細菌由来の酸の中和作用など、さまざまな機能を発揮することで、抗う蝕作用が期待できるものと考えられる。 また、S-PRGフィラーからは、6種類のイオンが放出されることが知られているが、これらのイオンのうち、F-とSr2+が歯質の強化に重要な役割を演じている(図6)。炭酸アパタイトをS-PRGイオン溶出液で前処理すると、酸による炭酸アパタイトからのCa、Pの溶出が阻害される(図7~9)。この作用は、1,000ppmFの前処理と同等であり、短時間の前処理でも十分な耐酸性を付与することができる。また、エナメル質中には微量ながらMgが含まれる。マグネシウムを含む結晶は、カルシウムのそれと比較して耐酸性が低く、う蝕のリスクとなりうる。仮説ではあるが、MgをCaやSrに置換することで、耐酸性の向上が期待されるとともに、乳酸水溶液(pH=3.9)PRGフィラーICP発光分光分析Si,B,Al,Sr,Naの検出遠心分離&ろ過AlBFNaSiSrpHLactic acid : S-PRG filler ( 3㎛) =100g / 1g76543210876543イオン徐放量(mg/g)pH1分3分10分60分24時間混合時間図5 S-PRGフィラーからのイオン抽出(溶出)液の作成と緩衝効果の検討。図6 S-PRGフィラーからのイオン溶出により、緩衝効果よる乳酸溶液のpHの上昇と、各種イオンの徐放が観察された。

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