デンタルアドクロニクル 2016
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健康寿命延伸のための歯科医療を考える2016 巻頭特集1113.歯周病→慢性炎症→認知症発症 歯周組織の炎症で産生されたサイトカインや活性酸素種などは、血液を介して脳に影響を及ぼします。歯周炎によって、全身の血液内の炎症性サイトカインや活性酸素種の濃度が高まると、認知症の発症リスクが高まることもわかってきています。口腔の健康が転倒・骨折リスクに影響 転倒・骨折も要介護に至る要因として見過ごせません。転倒は高齢者の約3人に1人に起こり、そのうち約6%は骨折、約24%は重度の受傷に至ると報告されています。 図2は、日常生活動作が「全自立」で、調査開始時点で「過去1年間に1度も転倒経験がない」と回答した、ある地域在住の65歳以上の1,763人を対象とした調査です。問紙調査によって、調査開始時点の自己申告の歯数、義歯使用の有無と3年後の転倒(過去1年間に2回以上の転倒)との関係を分析しています2)。 図によると、「19歯以下で義歯を使用していない」と回答した人は、「20歯以上」と回答した人に比べて、3年後の転倒リスク(オッズ比)が2.50倍(95%信頼区間:1.21~5.17)高いことがわかりました。 「19歯以下で義歯を使用している」人のリスクは1.36の値ですが、その95%信頼区間は0.76~2.45であり、95%信頼区間の中に1.00が含まれるため、転倒リスクは「20歯以上」の人との間に有意な差はありません。つまり、義歯であれ天然歯であれ、口腔内に歯を有していれば転倒リスクに差は認められなかったといえます。よって、歯の数が少ない「19歯以下」の人でも、義歯を使うことで転倒リスクが約半分(1.36÷2.50=0.544)に抑えられる可能性が明らかになりました。 ヒトは頭部が重いために身体の重心が上半身にあります。そして、咀嚼筋や歯根膜から脳に向かう求心性の線維によって、頭部の平衡が維持されています。そのため、歯の喪失、つまり咬合支持の喪失により、咀嚼筋や歯根膜からの神経伝達が減少し頭部が不安定になり、その結果、身体の重心が不安定となって転倒リスクが上昇すると考えられます。ただし、歯が少なくても義歯を入れている人では転倒リスクがそれほど大きくならなかったので、歯根膜よりも咀嚼筋からの神経伝達の影響が強いと考えられます。要介護要因の半分が口腔と関連 2013年国民生活基礎調査における「介護が必要となった主な原因」では、認知症がリスクの15.8%、転倒・骨折が11.8%を占めていました。これらの数値に、すでに歯周病との関連が指摘されている脳血管疾患(同調査で18.5%)、心疾患(同4.5%)、糖尿病(同2.8%)を加えると、合計は53.4%になります。すなわち、「要介護になる要因の半分以上は口腔の健康状態と関連する」といえるほど、口腔保健は介護予防に重要だと考えられます。 このように、健康寿命の延伸に役立てるのは医科だけではありません。われわれ歯科にも、いや、われわれ歯科だからこそできることがあるのです。図1 歯数・義歯使用と認知症発症との関係。「歯がほとんどなく義歯を使用していない人」は、「歯が20 本以上ある人」に比べ認知症発症のリスクが1.85 倍高い。図2 歯数・義歯使用と転倒との関係。「19 歯以下で義歯を使用していない」人は、3年後の転倒リスク(オッズ比)が「20 歯以上」と比べ2.50 倍高い。参考文献1. Yamamoto T,Kondo K,Hirai H,Nakade M,Aida J,Hirata Y. Association between self-reported dental health status and onset of dementia:a 4-year prospective cohort study of older Japanese adults from the Aichi Gerontological Evaluation Study (AGES) Project. Psychosom Med 2012 ; 74 (3):241 -248 .2. Yamamoto T,Kondo K,Misawa J,Hirai H,Nakade M,Aida J,Kondo N,Kawachi I,Hirata Y. Dental status and incident falls among older Japanese:a prospective cohort study. BMJ Open 2012 ; 2:e001262.

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