デンタルアドクロニクル 2016
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12巻頭特集1-4 健康寿命延伸のための歯科医療を考える2016Dr. Hiroyasu Hosomi細見洋泰(ほそみ・ひろやす)1975年東京医科歯科大学歯学部卒業、1975年東京医科歯科大学第一補綴学教室大学院入局、1979年歯学博士号取得、1979年細見デンタルクリニック開業。1991年東京医科歯科大学顎顔面機能統合評価学教室非常勤講師、2005年東京医科歯科大学歯学部病院義歯外来客員臨床教授、2013年一般社団法人東京都杉並区歯科医師会長。現在、日本補綴歯科学会認定医・指導医、日本磁気歯科学会認定医。補綴治療の本来の目的は咬合の回復 インプラント治療が欠損補綴のための手段のひとつとして注目されるようになってからかなりの時間が経ちますが、現在の歯科界では「なぜ、インプラントが必要なのか?」という点に対する考察が薄いのが残念なところです。これは何もインプラントに限ったことではないのですが、歯科界には義歯にせよ天然歯支台のクラウン・ブリッジにせよ、何らかの補綴装置を口腔内に入れた時点で評価が終わってしまう場合がほとんどであるという構造的な問題点があり、それが患者さんにとって本当に「食べられる」ものになっているかどうか、すなわち咀嚼機能の向上に関与しているか否かの客観的な評価がまずなされていません。そして、この評価がなされないがゆえに、「補綴装置さえ入れれば噛めるようになる、料金をチャージできる」という短絡的な考え方が広まってしまい、術式の選択や術者の熟練度については置き去りにされ、問題が起きれば「入れた補綴装置の材質や種類が適切ではなかったのだ」という結論になってしまいがちです。しかし本来ならば、補綴治療の大前提は咬合を回復させることにあり、材料は二の次であることを読者諸賢はお気づきのことと思います。求められているのは、口腔ケアだけではなく「経口摂取のための機能回復」 さてこうした中、歯科界では高齢者の口腔ケアに注目が集まっています。口腔ケアを行うことで誤嚥性肺炎が少なくなったり、慢性的に微熱のあった患者さんが回復したり、さらには食事を経口摂取できる患者さんのほうが術後の入院期間が短くてすむこともわかってきました。このことについては医科側も注目しており、「なぜ、口から食べられなくなってしまった高齢者がそのままになっているのか?」「口から食べられれば、早く一般の生活に戻ることができるのに」という声が上がっています。つまり、口腔ケアだけでなく、患者さんが食事を経口摂取できるための補綴も含めた歯科医療が求められているわけです。しかし、歯科はそのニーズにほとんど応えられていません。義歯を装着しようがインプラントを埋入しようが、「入れても食べられない補綴装置」が多くあり、それならばということで嚥下機能が疑われ、嚥下内視鏡検査が行われる場合もあります。ですが、そういった検査を行う以前に、食事ができる、咀嚼機能をまっとうできる咬合関係を付与できるだけの力が歯科医師側にあり、そこに口腔内のケアをしてくれる歯科衛生士がいれば、口腔内での医療としては、医科からのニーズに十二分に対応できるわけです。 しかし、現状では口の中に義歯が入っていてもご飯が食べられないという例がたくさんあります。それが理由でインプラントにする場合もあるでしょうが、咬合がきちんと確立できなければインプラントでも義歯でも同じことで、さらにインプラントでは術後のメインテナンスが天然歯よりもはるかに難しくなってしまいます。昨今、インプラント周囲炎の問題が取り沙汰されていますが、これについてはいまだに確実な治療法はなく、施術した歯科医師の意識が問われるところです。ともかく、経口摂取が可能な咀嚼機能を保つためには、補綴装置の種類を問わず咬合の安定が第一です。中でも、われわれのように義歯を専門としてきた歯科医師は残存歯と補綴物の咬合のバランスについて長年の間研究を続け、総義歯にどのような咬合を付与すれば良いかを解明しはじめていますし、さまざまな講演や執筆の場におい「 口腔ケアだけではなく、機能回復も視野に入れた高齢者歯科医療を」から見た“健康寿命延伸”

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