デンタルアドクロニクル 2016
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健康寿命延伸のための歯科医療を考える2016 巻頭特集113ても総義歯で咀嚼機能は十二分に回復できると述べられています。さらに部分床義歯に関しては、従来は総義歯までの移行義歯という位置づけであったものが、現在では欠損を現状以上に進行させないための補綴装置という見かたに変わってきています。 また、歯科の特殊性としてもう一点挙げられるのは、「保険か自費か」という問題です。もちろん、保険の義歯だからご飯がしっかり食べられないとか、逆に自費だからしっかり食べられるといったことはありませんし、これこそ先に述べた「入れたものの材質のせい」にされがちな問題です。この1月にファイバーポストが保険診療に使用できるようになりましたが、これも材質の問題にすぎず、ファイバーポストを使ったからといってその歯が守られるかどうかは別のお話でしょう。なぜなら、ファイバーポストはそれ単体で使用されるものではなく、コア用レジンや接着剤が別途必要なわけで、今回の保険導入にあたってはその点は考慮されていないためです。保険か自費かを論じる前に、その治療方針の妥当性がまず論じられるべきです。補綴治療に関しても、同じようなことがいえるケースは多いのではないでしょうか。欠損を残したままの口腔ケアでは、歯科の役割としては不足 歯科ではこれまで歯の欠損を歯牙欠損症として捉え、歯が残るか残らないか、それだけを評価基準としてきた時代が長く続きました。しかし、平均寿命と健康寿命との差に注目が集まる現在、欠損を放置したまま口腔ケアを続けても、「これは健康寿命なのか?」という疑問が生じてきます。歯科医療にもそろそろ、経口摂取できるか否かという「質」の部分を考慮する流れが来てほしいというところです。 現在、国では増大しつづける医療費への対策として、地域医療の振興を図ることで全国の各都道府県に権限を移譲しようとしています。この地域医療の中では医科と歯科との連携が必須となりますが、現状では歯科は「ケア」の部分でしか貢献できていません。これは、歯科として由々しき問題です。たとえば、ご飯が食べられない患者さんがいて、すでに使用している義歯に不具合がある場合には歯科医師が「キュア」として参画する必要があり、歯科診療部門にある程度オファーがなければならないのに、それがない場合が多いことは問題です。 また、若いころから歯科医院で治療やメインテナンスを受け、どうすれば口腔内を健常な状態に保てるか、ということを理解している患者さんは、どのステージにおいても口腔内はもちろん全身の健康に気をつけておられますし、あくまでも私見ですが認知症を患われる患者さんも少ないように思います。それはわれわれが提供した歯科医療の質というよりも、自分の口腔内をきちんと維持しようという気持ちが全身の健康状態にもプラスになっているように思われます。先日、私の所属する杉並区歯科医師会で8020達成者の表彰式を行ったのですが、当然、人口構成的に考えて女性の受賞者のほうが多いだろうと考えていました。しかし、実際には男性のほうが2名ほど多かったのです。こういった現象に関する疫学的な調査はなされていないと思いますが、ある程度の年齢を過ぎると、自分の口腔内や健康状態への意識の高さが実際の健康状態と相関するような気が私見ながらしています。このように、8020運動を通じて高齢者の意識が高まり、健康寿命の延伸や医療費の削減につながれば喜ばしいことです。そしてもちろん、そこに歯科医師として参画し続けていきたいと思います。(談)図1a、b 年に1回の8020達成者の表彰風景である。高齢者において20本以上の歯牙を保っている方々に有病高齢者が少ないのも、何か原因が口腔領域にあるように考えられる。図2a 術前の、クラスプデンチャー装着時の正面観である。義歯の不適と咬合平面の不整が確認できる。図2b 術後の正面観。このように咬合平面の再構成が咬合機能の回復には必須であろう。

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