デンタルアドクロニクル 2016
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16巻頭特集1-6 健康寿命延伸のための歯科医療を考える2016Dr. Yukio Kameda亀田行雄(かめだ・ゆきお)1988年東北大学歯学部卒業、1991~2002年東京医科歯科大学歯学部高齢者歯科学講座在籍。1994年埼玉県川口市にてかめだ歯科医院を開設。2014年に医療法人D&Hを設立するとともに分院を開設し、現在に至る。日本臨床歯周療法集談会(JCPG)副会長を務め、本年4月より有床義歯学会(JPDA)会長、特定非営利活動法人日本顎咬合学会咬み合わせ指導医・学会評議員を兼任する。訪問歯科診療の経験が補綴治療をさらに鍛える 私たちの医院が、高齢や障がいにより来院が難しくなった患者さんに訪問歯科診療を行うようになって、そろそろ6年になります。 訪問歯科診療をはじめて実感しているのは、医院の外に出る経験が、逆に院内の臨床を鍛える、ということです。ご高齢の患者さんが将来もしもご自宅や施設で過ごすようになったとき、寝たきりを防ぎ、健康寿命を延伸するためにどんな補綴治療が有利なのか。医院に戻ってからの臨床へのフィードバックは想像以上に大きなものでした。 訪問診療をはじめたのは、医院でも、患者さんのご自宅でも、シームレスにメインテナンスを行いたいと考えたからです。当院でインプラント治療を受け、高齢となった患者さんが、「付き添ってくれる家族に負担をかけるから通院を止めたい」とおっしゃられたのをきっかけに、思い切って訪問歯科診療を本格的にはじめました。 定期的に訪問して口腔内の管理を継続することで、口内環境を守り、補綴装置を維持してお口から食べていただき、高齢者にとっていのちの問題となる誤嚥性肺炎を防ぐことができれば、来院できなくなった患者さんのお役に立つことができる。こう考えてはじめた訪問歯科診療でしたが、それ以上に考えさせられたのが院内での治療計画の在り方です。なかでも高齢者の補綴治療へのフィードバックは、計算外の収穫でした。通えなくなっても維持できるお口を作る 訪問をはじめてあらためて強く感じているのは、元気で通院できるうちにしっかりと治療し終えておくことの大切さです。患者さんの今後を想定して適切な介入を行うことは、患者さんの介護予防になり、健康寿命の伸延を支えるのです。 患者さんが通院してくださっているあいだに、しっかりと治療をすませておくことができれば、その後、大きな治療が必要になることはまずありません。口腔内の管理が難しい状態のまま医院に通えなくなってしまうと、細かな作業が苦手になることによるブラッシング不足、唾液量の減少などが相まって、急激に口腔内の状態が悪化する恐れがあります。 そうなると、最悪の場合、大掛かりな補綴装置の作り替えが必要となってしまいます。訪問先の設備のないなか、一定の姿勢で長時間開口していただくことや、一からお口の型を採るなどの過程は、ご高齢の患者さんにとって、体力的にかなりの負担です。 しかし、院内できちんと治療を終えておけば、必要となるのは小さな修理やお口のクリーニングであり、患者さんに大きな負担をかけることなく、メインテナンスの範囲でよい状態を維持していくことができるのです。ケアしやすい補綴装置で健康寿命を支える また、ご高齢の患者さんに適した、清掃性・自浄性のよい補綴装置を作っておくことも、その後のメインテナンスにおいてたいへん有利になります。訪問を行うなかで、あらためて実感しているのが、義歯などの可撤式補綴装置の優位性です。取り外しができると患者さん自らだけでなく、介護者も手入れがしやすい、ということです。 フロスや歯間ブラシなどを用いて自分である程度きれいに清掃できる若い患者さんと違い、細かな部分の掃除がしづらくなる高齢者にとって、清掃性や自浄性の高い補綴装置は、その後の医院から訪問歯科診療へシームレスなメインテナンスを考えるから見た“健康寿命延伸”

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