デンタルアドクロニクル 2016
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健康寿命延伸のための歯科医療を考える2016 巻頭特集117健康寿命を支える意味でたいへん重要な条件となります。 清掃の難しい補綴装置には必然的に汚れが付着し、口内環境の悪化を招いてしまいますが、可撤式の補綴装置であれば、自分で清掃しやすいのはもちろん、将来的に介護が必要になってからも介護者によるケアを受けやすいため、口腔内の状態が極端に悪化する事態を防ぐことができます。 患者さんに大きな負担をかけず、お口の清潔さを保つことを最優先に考えて、義歯やインプラントオーバーデンチャーなど可撤式の補綴装置の優位性を、今後も積極的に活かしていきたいと考えています。来院できるあいだによく噛める補綴装置を その際に重要なのが治療のタイミングです。元気で通院できるうちに補綴治療を終えられるよう、適切なタイミングを見極めるうえで、以前よりメインテナンスに通っていただいていることがここで生きます。また、元気なうちに補綴装置を作っておくことで患者さん自身がその清掃に慣れ、プラークコントロールを習慣づけられることも大きなメリットとなるでしょう。 欠損を放置したままでお口のなかが汚れ、唾液量が減り粘膜も荒れると、義歯の装着が困難になります。こうなると咀嚼も当然困難となり、唾液はさらに減るという悪循環がはじまります。 咀嚼できれば唾液の分泌が促進され、粘膜が活性化し、自浄作用も働いて最終的には消化に役立ちます。こうしたよい循環を担っているのは、適切な補綴です。つまり、「手入れのしやすい補綴装置を使い、自分で噛んで食事ができる」という状態に来院できるあいだにしておくことが、患者さんの介護予防、そして健康寿命伸延に果たす役割は大きいと考えます。シームレスなケアで患者さんのいのちを守る 適切な補綴とともに重要なのが、やはりプロフェッショナルケアでしょう。歯科が定期的に介入し、口内環境を維持することができれば、高齢者の死因として問題になっている誤嚥性肺炎の予防に効果を上げることができます。 嚥下機能が低下し誤嚥しやすくなった高齢者にとって、誤嚥性肺炎の予防は喫緊の課題です。むせの反射が起こることなく、就寝中無意識のうちに不顕性の誤嚥をしてしまうと、慢性的に肺炎が起き、患者さんの体力を徐々に奪ってしまいます。 これを防ぐには私たち歯科のプロが介入し、口腔内を定期的にクリーニングして歯面に汚れが付着しにくい環境を守っていかなければなりません。そのためにも、シームレスなメインテナンスの重要性を日頃から患者さんへ啓蒙していくことは、私たちの大切な使命であると感じています。 現在、元気に医院へ通っておられる患者さんも、この先、さまざまな理由で通えなくなることがあるかもしれません。しかし、医院へ通えなくなってしまったとしても、口内環境が急激に悪化してしまわないよう、患者さん自身でケアしやすい状態にしておくということがたいへん重要です。 今後は、来院中の患者さんのその後を見越して治療計画を立て、適切なタイミングで治療介入する必要性が高まるとともに、シームレスな生涯メインテナンスが求められる時代になってくるでしょう。 歯科医療が介護予防に、ひいては健康寿命延伸に果たす役割は、今後ますます大きくなっていくのではないかと私は考えています。(談)適切な補綴治療とメインテナンスの継続で患者さんの健康寿命を延伸させたい。歯科医師と歯科衛生士の2人1組で訪問しています。粘膜ブラシなども用いて徹底的に清掃します。訪問歯科診療用のポータブルユニットを持参し、患者さんのご自宅で医院と同じように、治療やメインテナンスを行います。

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