デンタルアドクロニクル 2016
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64 特別座談会安田 今日はお集まりいただいた各先生に歯科医療の状況をそれぞれの立場から考察いただき、予防や口腔衛生面で松風がどのようにかかわっていけるかを考えてみたいと思います。一番バッターは今里先生にお願いし、機能性材料群である“Giomer”をわかりやすく説明していただこうと思います。2番目には杉山先生に長い間予防に携われてきた経験から海外との比較をふまえた現代の予防臨床についてお話しいただき、3番目に関先生から小児歯科の視点から、今までの問題点なども整理いただき、松風のこの商品が使いやすいといった具体的な話もしていただければと思っています。次に須貝先生からは訪問診療もなさっている経験から、その問題点や展望をお話しいただければと思います。そして最後に、各先生の日常臨床から導き出された松風の製品への要望、期待をまとめたいと思います。 まずは今里先生からよろしくお願いいたします。バイオアクティブ機能を備えた次世代型材料今里 私は、今は歯科理工学教室におりますが、それ以前の25年間、歯科保存学教室で臨床をしながら材料研究を行ってきましたので、自称“臨床がわかる材料学者”ということで、今回お声掛けいただいたのだと思います。 バイオアクティブ機能を備えた次世代型の材料ということでGiomerの研究・開発が行われているわけですが、たとえば修復治療では、現在は、repeated restoration cycleを止めるというのが非常に重要な考え方になっており、使用される材料的には予防機能を発揮するものが必要になります。それを支えるのがバイオアクティブな材料というわけです。松風のGiomerにはS-PRGフィラーが使われており、これが色々なバイオアクティブ機能を発揮することがわかってきました。S-PRGフィラーは松風の接着材、シーラント、コート材、コンポジットレジンなどに使われており、表面処理を施した多機能性ガラスをポリアクリル酸と反応させることにより、表面改質層の内側にあらかじめグラスアイオノマー相が形成された3層構造を有する白色のガラス粒子です(図Ⅰ-1)。グラスアイオノマー層を持つことからフッ素徐放性を有しており、比較的高い濃度でフッ素が徐放されるうえ、フッ素のリチャージ能力も持っています。 しかし、このフィラーのおもしろいところは、多機能性ガラスコアにフルオロボロアルミノシリケートガラスが使用されていて、フッ素だけではなく、多種類のイオンを放出するという点です(図Ⅰ-2)。このようなマルチイオンの徐放能を備えたフィラーはほかにはありません。表Ⅰ-1に示すのがS-PRGフィラーからの各イオンの放出濃度ですが、いずれも高い濃度であることがわかります。ストロンチウム(Sr)やボロン(B)はとくに高い濃度を示しています。これらのイオンの有効性としては、現在判明しているだけでも、歯質強化、酸の中和・緩衝、石灰化促進、抗菌性などがあげられます。 まず歯質強化作用は、放出されるストロンチウムによって、ストロンチウムアパタイトが形成されることによると考えられています。ストロンチウムアパタイトはフルオロアパタイトよりも耐酸性が高いので、歯質強化につながるのです。酸の中和・緩衝は、ストロンチウムとナトリウムイオンによるものであろうといわれていますが、作用は劇的で、酸性の液にS-PRGフィラー含有材料を浸けると数時間のうちにpHがどんどん上がって中和されます。この効果は臨床的には、歯頸部や小児の萌出直後の歯の脱灰抑制につながります。石灰化促進にもストロンチウムが関与しており、S-PRGフィラーからイオンが瞬時にして放出されることで、石灰化物の析出が非常に速いスピードで起こります。硬組織誘導作用についてもMTAと同様な好結果を得ています。最後に抗菌性についてですが、防腐剤としてよく使われるホウ酸がイオン状態で放出されるので、S. mutansなどに対して抗菌効果を示すことがわ表面改質層グラスアイオノマー相多機能性ガラスコアストロンチウムイオンSr2+フッ化物イオンF-ケイ酸イオンSiO32-アルミニウムイオンAl3+ホウ酸イオンBO33-ナトリウムイオンNa+図Ⅰ-1 S-PRGフィラーは3層構造からなり、表面改質層の内側にグラスアイオノマー相(約100nm以下)を有する。図Ⅰ-2 S-PRGフィラーのガラスコアには多機能性のフルオロボロアルミノシリケートガラスが用いられており、その表面のグラスアイオノマー層からマルチイオンの放出が生じる。AlBNaSiSrF861,98949852319201Al、B、Na、Si、SrについてはICP発光分光分析法により元素として検出、Fはフッ素電極を用いて測定。表Ⅰ-1 S-PRGフィラーから放出したイオン種の元素分析。

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