デンタルアドクロニクル 2016
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69歯科医療の状況をそれぞれの立場から考察する 私は小児歯科の専門医ではないですが、以前から子どもたちを健全な歯列に導くために、咬合育成を積極的に行ってきました。その成果を昨年1冊の書籍にまとめました(図S3-2)。これらの患者さんは図S3-3のように、すべての歯が揃った元気な高齢者になる資格が得られたということになると思います。かかりつけ医としてはこういった患者さんをメインテナンスなどで継続してみていくという姿勢でいましたが、なかには患者さんが要介護状態になるといった状況も散見されるようになってきました。これは新しいニーズができたことになります。家に寝たきりのおばあちゃんがいるのでみてほしいとの依頼も増えてきました。このような患者さんにはシームレスな対応をしていかなければと思っています。また、地域の行政からの要請もあって特別養護老人ホームにも出向くようになりました。そこでみる口腔内はいまだかつてみたことのないようなものです。唾液量の低下、ブラッシング力の低下、間食機会の増加、摂食嚥下能力の低下などが主な原因と考えられますが、そこに圧倒的に不足するマンパワーと医療・介護報酬という問題が絡んできます。 このような現場で苦慮するのが先ほど今里先生からもお話があった根面う蝕です。図S3-4のように通常診療室ではコンポジットレジンで修復し、今里先生からご説明のあったS-PRGフィラー配合の「ビューティフィルシリーズ」を使用しますが、訪問先での治療にはコンポジットレジンは到底使えませんので、松風の「ハイ-ボンド グラスアイオノマーF」を用いています。2025年には65歳以上の高齢者が人口の30.3%を占めるようになるといわれています。このような根面う蝕の症例がどんどん増えていくことは容易に想像されます。歯科医師会や行政などからさまざまな介護支援の要請などがありますが、私を含めてほとんど歯科医師はなしのつぶてではないでしょうか? ここは歯科が大きく関与しなければならない時期にきていますし、地域からの要請もすごく多いです。私も少しずつですが、地域の介護支援の催しをお手伝いさせていただくようになりましたが、このような催しに歯科が入り込む難しさも感じています。とくに口腔ケアなどは医科から歯科が取り戻さなければならないと考えています。超高齢社会が歯科医療を必要としているのです。安田 ありがとうございました。先生が最後にお話になった口腔ケアの必要性、医科と歯科の垣根を取り払ったグループとしての活動の必要性、よくわかりました。ただ、そこに歯科医師が入り込めない理由、出ていかない理由はどのようなことが考えられると思われますか?須貝 まずはそこに入り込むルートがわからないことが考えられます。私の場合は歯科医師会経由で話がくることが多いです。要請はすごく多いので、気持ちがあってそれをアピールしていけば道は開けるのではないでしょうか?安田 私が思うには、医科の人たちに対して歯科医師が尻込みしているといった印象も受けるのですが。須貝 全身のことは医科に任せて歯科が本来やらなければならない基本的な治療をしっかりやっていくことで、信頼は得られていくと思います。関 横浜は医科-歯科連携がかなりうまくいっているほうだと思います。なお、私の所属している港北区においては三師会(医師会、歯科医師会、薬剤師会)がうまく連携を取っています。松風の製品への要望、期待安田 最後に今回の命題でもある「松風の製品がわれわれの臨床にどうかかわっていくか?」について、こんなものがあったら重宝するといった要望も含めて1人ずつお願いいたします。今里 先にも述べましたが、予防的機能を備えた材料、予防に使える材料をもっと開発していきたい、また開発してほしいと思っています。とくに何度も話にも出てきました根面う蝕に対しては強くそう思っています。先ほどの須貝先生の話にもあったように、介護の現場では根面う蝕の処置は厳しい。だからその前の段階で、材料を使って少しでもネガティブなファクターを減らすことができたらいいなと思っています。杉山 私は2点要望があります。1つはエナメル質に対するもので、隣接面のシーリングにある材料を使っているのですが、国産はまだないのです。そのシーリング材を何とかしてほしい。あとはフッ化物です。高濃度のフッ化物のバーニッシュもほしいですし、歯磨剤もないです。濃度の規定も変わってきていますので、それに対応したものがほしいですね。関 やはりシーラント材でしょうか。杉山先生と同様にフッ化物も自分の納得がいく濃度で使用したいですね。要望としては、小児歯科医として矯正装置に使う床用レジンやブラケットに細菌、プラークの付着を予防するような材料がほしいですね。須貝 たとえば接着剤などはエッチングや乾燥など、操作にある程度きっちりステップを踏まないと効果を発揮しないものがあります。在宅や介護の現場では、その煩雑な作業をしている余裕はないのが現状です。その操作をもう少し簡素化したものがあるとよい気がします。現在はグラスアイオノマーセメントを使っていますが、ある程度接着力があって抗菌効果もあって、安定させることができる材料が必要と思っています。安田 最後に松風の製品に対する要望、期待を話していただきました。材料開発、小児歯科、高齢者歯科の現状をお話しいただいたうえでの要望、期待は、今後、松風の製品開発・改良に有用な情報としてお伝えできたと思います。今日はありがとうございました。

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