デンタルアドクロニクル 2016
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7979The KND Storyロールできる厚みと形態、そして焼成スケジュールを求めるために、10年が費やされたというわけである。●食器から工業分野まで。セラミックスのコア技術を活かした4つの事業分野。 また、ノリタケの初期からのもう一つの事業の柱としては、研削用砥石が挙げられる。そう聞くと、かなりの昔から歯科材料を取り扱っていたように思われるかもしれないが、これも陶磁器製造のためである。焼き上がったばかりの陶磁器は、コントロールされているとはいえ完全に底面を平らにすることは難しく、大きなディスク状の砥石で底面を削ることで仕上げているためである。 また、この砥石は第二次大戦中の軍需産業を支える役割も果たした。名古屋は三菱重工業の拠点となっており、かつてはその大江工場で零式艦上戦闘機(いわゆるゼロ戦)も製造されていた。その影響で、1943年から1945年にかけては国の命令により食器の製造を禁じられ、工業用研削砥石の製造に注力することとなった。これも、現在のノリタケを構成する技術の一角をなす要素となった。 その後もノリタケは、セラミックスの研究開発を続けることによって成長を遂げた。食器の転写技術とガラス、セラミックスへの焼き付け技術は電子部品の開発にも役立ち、蛍光表示管やプラズマディスプレイの背面パネルにもノリタケの技術が生かされている。蛍光表示管は初期の電卓や新幹線車内の電光掲示板でおなじみになったほか、現在でも高い視認性が求められる自動車のデジタルメーターや医用機器に多く用いられている。さらに、かつては東京ドームのオーロラビジョンにも三菱電機との共同開発のもとで採用されていた。現在では、研削材料などを含む工業機材事業、石膏材料などを含むセラミック・マテリアル事業、大型の工業用炉などを含むエンジニアリング事業、そして食器事業がノリタケの事業の4つの柱となっている。●「クラックフリー」を常識に変えた、AAAの圧倒的な信頼性。 そして、セラミックスやガラスの加工、そして各種材料への焼き付けにより培った技術が歯科向けについに花開いたのが、1987年に発売された「ノリタケスーパーポーセレンAAA〔トリプルエー〕」(以下、AAA)という歯科用陶材である。 これらの歯科用陶材の開発に関しては、現在でも歯科界でカリスマ的存在となっている歯科技工士の坂 清子氏(クラレノリタケデンタル顧問)の貢献が非常に大きい。愛知県という土地は、先述のとおりもともと窯業がさかんな土地柄であり、名古屋大学や名古屋工業大学、そして企業としてはノリタケなどがセラミックスの研究を熱心に行っていた。こうした中、坂氏はノリタケの門を叩き、かつての前装用陶材で頻発していた「昨夜作ったメタルセラミッククラウンが、納品する朝になると割れてしまっている」「装着まで漕ぎ着けたはいいが、すぐにチッピン▲ブロードウェイにあった「モリムラブラザーズ」の外観。▲ノリタケ初の洋食器シリーズ「セダン」。▲歯科用陶材「AAA(トリプルエー)」。

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