デンタルアドクロニクル 2017
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オーラルフレイルの予防を多角的に考える2017巻頭特集113けであるが、この中に歯科技工士が常駐していることはまだ稀であろう。もしこのチーム医療の枠組みの中にわれわれ歯科技工士が参画し義歯リハビリテーションなどを担おうとするのであれば、少なくともオーラルフレイルのほか、運動器障害を表す「ロコモティブシンドローム」や筋力低下を示す「サルコペニア」などに代表される数多くの用語の理解は基本中の基本であり必須項目である。なぜならば、医療・介護の分野では日常的にこれらの言葉が使われているためであり、それらを知らずしてチームの一員としての共通理解を得ることは不可能である。さらには、オーラルフレイルなどの疾患を見出す思考手段としてSOAP理論が活用されていることをしっかりと理解しこれも身につける必要がある。SOAPとは、POS(Problem Orient-ed System)つまり問題志向に則った考え方によって患者のもつ医療上の問題をデータとして集積し、S(主観的情報)、O(客観的情報)、A(情報の統合・分析)、P(治療計画)に分けて治療方針を構成していくものである。これらを活用し歯科医療の主軸である歯科医師はもちろんのこと、歯科衛生士も口腔ケアや摂食・嚥下訓練の担い手としてすでに高齢者歯科の分野、とりわけ介護の現場でチーム医療の一員として活躍の場を広げており、SOAP理論なども養成期間の段階で履修項目として組み込まれるなど教育体制の確立もされつつある。 このような流れの中、歯科技工士は沈黙したまま行動に出なくてよいのだろうか。自分には関係ないと決めつけて、ただラボにこもり補綴物を量産するだけの時代ではなくなっているのではないだろうか。チームの中に歯科技工士が在籍することで貢献できることは多岐におよぶはずである。ひとりでも多くの患者に快適な健康寿命を提供しQOLの向上の一助となることが医療人としてのわれわれの責務であると筆者は認識している。終わりに 一般的にQOLとは「生活の質」として訳されることが多い。しかし、筆者はこれを「命の質」ととらえて日々の臨床に取り組んでいる。チーム医療もSOAP理論も、それそのものを行うことが目的ではない。それらを活用することでオーラルフレイルの予防・改善を促し、ひいては「命の質」の向上に携わることこそが目的なのである。「なぜ義歯を作るのですか?」という問いに対し「そこに歯がないから」としか答えることのできない歯科技工士にはなりたくないものだ。読者諸兄も、時代に適合した考え方をもって視野を広げてみてはいかがだろうか。表1 疾病の予防の概念(左)。図1 機能する義歯はオーラルフレイルの改善につながる。参考文献1.‌葛谷雅文,雨海照祥.フレイル 超高齢社会における最重要課題と予防戦略.東京:医歯薬出版,2014.2.‌川島哲.新1週間でマスターするキャストパーシャル.東京 :医歯薬出版,2012.3.‌吉田直美,遠藤圭子,渡邉麻理,鈴木純子.歯科衛生過程 HAND BOOK.東京:クインテッセンス出版,2015.4.‌ 岡村祐聡.POSを活用するすべての医療者のための SOAPパーフェクト・トレーニング.東京:診断と治療社,2010.第一次予防健康教育などの健康増進予防接種などの特異的防御第二次予防早期発見・早期治療機能喪失の阻止第三次予防喪失した機能の回復リハビリテーション図3 医療行為の基本的な流れ。歯科技工士が関与するとすれば「治療」の部分となるが、ここに常駐している歯科技工士はまだ稀であろう。医療面接診断治療リハビリテーション図2 a、b 義歯装着前の患者アンケート(a)と、装着後のアンケート(b)。機能する義歯によって、患者の食生活と摂取可能な栄養の質・量も改善する。ab

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