デンタルアドクロニクル 2017
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オーラルフレイルの予防を多角的に考える2017巻頭特集115健常者と同等ともいえる200mg/dl以上まで回復するのは義歯などではなくインプラントを埋入した患者さんです。 こうした情報をもっと患者さんに提供していけば、インプラント治療のイメージも変わっていくのではないでしょうか。メディアでは負の情報のみクローズアップされていますが、私は咀嚼機能回復が生活習慣病と体組成の改善につながる有用性を是非広めていただきたいと思います。健康づくりにとって強力なツールであるインプラントの長所が見過ごされてしまうのは、実にもったいない話です。 たとえば、インプラント治療をしたのに患者さんが痩せたままだったら、歯科衛生士が「お肉は召し上がっていますか?」と聞いてみる。すると「もう歳だからお肉は一切食べなくなりました」と答える患者さんは多いでしょう。それが問題であることに患者さん自身が気づいていないのです。 そこで、インプラント治療を行っている先生方にぜひ推奨したいのが、治療前後に体組成を測ることです。あるいは、体脂肪率などを測れる体重計をもっている患者さんも多いので、自宅で測って数値を記載してきてもらう。基礎代謝が上がって、体脂肪量が減って、筋肉量・骨量が増えていれば、理想的な体組成に近づいているんですよ、と患者さんに伝えてあげる。そうした保健指導を少しずつでも良いので始めていくこと。それが歯科医療の現場で当たり前に行われるようになることが理想です(図2)。インプラント埋入後の体型補整と健康増進が最終目標 これまでのインプラント治療の多くは、インプラントを埋入して、上部構造を作って、咬合を再構成することが“ゴール”とされてきました。それは高い技術を要することですし、すばらしい処置であることは論を待ちません。しかしながら、治療を終えた後は歯科医師も関心を失っていき、患者さんも噛めるようになった途端に好きなものを食べてしまう、というケースが少なくないのも事実でしょう。 そうではなく、インプラントが口腔内に入れられて、摂食環境の整備が終わってからが“スタート”である、という認識をまずは患者さんと歯科医療者側が共有することです。咬合再構成はいわば“手段”と考え、回復させた口腔機能を使って、どうやって健康づくりを行っていくか。現状では、そうした目標を達成するための保健指導には保険点数が付かないので、医院経営に直接寄与する仕組みは構築されていません。しかしながら、国民はそこを望んでいる、あるいはそう遠くない未来に強く望むようになるでしょう。 今後のインプラント治療を含めた歯科補綴領域でキーワードとなるのは、患者さんの体型の管理(体型補整)と健康増進です。歯科の場合は、高い受療率があり幅広い年齢層の患者さんが訪れるので、前述のように正常な体型から逸脱したり、フレイルに陥りそうな患者さんに声かけしていくことが、以前にも増して重要になってきます。 それらはフィットネスクラブなどでも行っていることですが、彼らの仕事は「適切に栄養摂取したのち、どのように筋肉に変えていくか」に高い比重が置かれています。一方、歯科診療所は、栄養摂取についてきちんと指導をして、健康増進を達成するかが重要になります。これからは双方が密に連携を図っていければ良いと考えます。 また、「体型=食べ方」ですから、その患者さんがどんな食べ方をしているか、何を食べているかが、必ず痕跡として体に出てきます。管理栄養士などはそれがわかるし、助言もできます。今後は、歯科領域に管理栄養士が介入する時代が自然に訪れるでしょう。図2 下顎臼歯部インプラント治療後に保健指導を行い、体質改善を行った患者さんの各種数値の変化。初診時62歳の男性。76欠損であった。中等度歯周炎に罹患していたほか、高血圧・高脂血症であり、外食・アルコール摂取が多い、パンや揚げ物が好き、運動習慣なし、といった生活習慣の問題点があった。インプラント補綴後、食事指導をはじめとした保健指導を行った結果、体組成が改善された。項目保健指導前(かた太り型)保健指導後(標準)咀嚼機能値70(右欠損側)230(右補綴側)体重(kg)88.0078.55BMI28.225.2体脂肪率(%)26.9021.80筋肉量(kg)61.0558.25除脂肪体重(kg)64.3561.45脚力8892基礎代謝(kcal)(年齢別基準値×体重kg)1,802実測(21.5×88=1,892)1,696実測(21.5×78.5=1688)内臓脂肪レベル1714血圧(収縮期/拡張期mmHg)150/95135/85図1 オーラル・フレイルが放置された場合と回復した場合との、その後の健康軌道をフローチャートで示す。両者には著しいライフコースの差が認められる。口腔機能低下症オーラル・フレイル栄養摂取量低下低栄養 低代謝量タンパク質低栄養・低アルブミン血症骨量・筋肉量低下基礎代謝低下ロコモティブシンドローム・施設へ入居栄養摂取量の回復増加栄養充足・アルブミン値の維持または改善骨量・筋肉量の維持改善代謝量の維持または改善健康寿命延伸・高いQOLインプラントなど補綴・リハビリ等で回復した場合放置した場合

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