デンタルアドクロニクル 2017
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16巻頭特集1-6オーラルフレイルの予防を多角的に考える2017Dr. Mitsuyoshi Yoshida吉田光由(よしだ・みつよし)広島大学大学院医歯薬保健学研究院 先端歯科補綴学研究室准教授。広島市立リハビリテーション病院歯科を経て現職。日本補綴歯科学会専門医・認定医。日本老年歯科医学会専門医・認定医。歯科のフレイル予防は通常の歯科治療から 超高齢社会のなかで、要支援高齢者、要介護高齢者を歯科が診る機会が増えています。また、歯科訪問診療というあらたな使命が加わった現在の歯科医療では、摂食嚥下機能の低下した高齢者を診る機会も出てきています。 こうした急速な社会の変化に、私たちの意識がはたして追いついているだろうかと考えるとき、まだまだなのではないかと感じます。いまだ摂食嚥下障害は、特別な歯科医師が対応するべき特別な治療だという意識が残念ながら根強いですからね。 私は、私たちが持つ専門的技術である義歯治療――つまり日常的に行っている歯科治療――によって、じつは患者さんたちの摂食嚥下機能の維持・改善につながるんだということに、そろそろ気づくべきなんじゃないか、と思っているんです。もっと言うと、歯科が適切に介入すれば、「患者さんが自立して暮らせる期間を延ばすお手伝いができますよ」ということを、もっと社会にアピールしていいんじゃないか。そのためにはまず、私たち自身が自分の仕事でなにができるのかを知ることが大事だと思います。臨床実感を裏付けるさまざまな研究データ たとえば、「歯がいい人は歳を取っても元気だ」とか「ボケにくい」など、臨床家の多くが経験的に持っている実感ってありますよね。「なんとなくそんな気がする」という、患者さんを長く診るなかで生まれた確信、とでもいうようなものです。 その実感が事実なのかを検証する研究は、これまで数多く行われてきました。そして、それを裏付ける結果が多く発表されています。発表されたデータが臨床家の琴線に触れ、「自分の臨床実感は、裏付けのある確かなものなんだな」と関心を持ってもらえると、その後も論文に引用されたり、講演や研修で取り上げられ、広がって、生きたデータとして活用されていきます。 ときには、そうした研究が社会を動かすこともあります。そのよい例が、1999年に発表された「口腔ケアが誤嚥性肺炎予防につながる」という研究発表です。このデータは多くの人の心動かしました。ついには社会を動かし、口腔ケアは介護施設の口腔衛生管理として定着、さらには周術期の口腔衛生管理にも広がりをみせています。 私はじつは口腔衛生管理だけでなく、補綴治療、なかでも義歯治療が、低栄養の改善、転倒の予防、そして摂食嚥下機能の維持・改善に役立ち、高齢者のフレイル予防に重要な役割を果たしていると思っています。私の研究からも、実際にそれを裏付けるデータが上がっていますのでご覧いただきましょう。補綴治療がフレイル予防に果たす役割とは たとえば、歯のない高齢者の場合、ふだん義歯を使って食べている人のほうが、使わない人に比べて生存率が高いことがわかりました(グラフ1)。それがなぜなのか、ほかの研究データも見ていきましょう。 まず、転倒予防における義歯の効果を見ましょう。厚生労働省の報告によると、高齢者の寝たきりの原因の約12%が転倒です。転倒のリスクを減らすことは、高齢者のフレイル予防にとって重要な課題です。年に2回以上転倒している認知症高齢者を調べると、歯がなく義歯も使っていない人が圧倒的に多く、一方転倒が年に1回以下の認知症の高齢者は、歯があるか、フレイル予防と義歯の役割超高齢社会を支える歯科医院の補綴治療から見た“オーラルフレイル予防”

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