デンタルアドクロニクル 2017
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6巻頭特集1-1オーラルフレイルの予防を多角的に考える2017Dr. Tamotsu Sato佐藤 保(さとう・たもつ)公益社団法人 日本歯科医師会副会長。一般社団法人 岩手県歯科医師会会長。1980年、岩手医科大学歯学部卒業後、岩手医科大学歯学部歯科保存学第一講座。1989年、佐藤たもつ歯科医院開設。現在に至る。歯を残す「8020運動」の評価なくして口腔機能の議論はできない 日本歯科医師会は、「8020運動」に加えて、平成27年より「オーラルフレイル」を新たな国民運動として展開させていくことを発表しています。そのようななかで、なぜ8020運動が国民運動になり得たのかということを、今回はあらためて考えてみたいと思います。 平成元年に提唱された8020運動は、健康日本21(1次、2次とも)においても歯科領域の成果は評価されています。80歳で20本以上の歯を有する者の割合は、運動実施当初は8020達成率が7%でしたが、平成17年の歯科疾患実態調査においては初めて20%を超え、平成23年の調査後の現在では40%を超えるほど成果を挙げています(図1)。8020運動は「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」のみならず、各世代で実践されたまさに国民運動といえるでしょう。 う蝕によってたとえ歯を失ったとしても、義歯によってしっかり噛むことができるということを歯科医療が保障したという側面は非常に大切な視点であり、大きな意味があります。この成果について、私たち歯科医療従事者は再認識する必要があります。 図2は、平成23年11月に開催された中央社会医療協議会(中医協)の第209回総会で配布された「歯科治療の需要の将来予想」です。従来の歯科治療の需要は、歯の形態の回復を中心とした健常者型の歯科医療でした。これからは超高齢社会の進展にともない、口腔機能の回復を中心とした高齢者型の歯科医療にシフトしていかなければならないということは周知の事実です。しかしながら、従来のような歯科医療が提供されてきたことで歯科固有の技術や材料の研究・開発が進展し、歯科医療従事者の日々の努力の結果、数多くの歯を残すことが可能になってきたわけです。今後は、う蝕の減少にともない修復治療も減少してくることはいうまでもありません。 このような流れを踏まえたうえで、今後は8020運動のさらなる推進と、「オーラルフレイル」という新しい考え方をもって、口腔の機能の維持・回復をどのように考えていくべきかという議論になってくると思います。私たち歯科医療従事者は、8020運動の成果による歯の形態の回復と、オーラルフレイルの予防を含めた口腔機能の回復の両方から、時代のニーズに応じてアプローチしていくことが求められます。 現在、厚生労働省の「医療計画の見直し等に関する検討会」において、第7次医療計画の作成指針などの見直しに向けた協議の中で、「5疾病・5事業及び在宅医療等について」では、高齢化にともない増加する疾病への対応として、ロコモティブシンドローム、フレイル等、肺炎、大腿骨頸部骨折などは5疾病に追加はしないものの、対策は重要であり、別途検討することが必要、と議論されています。国もフレイル対策を検討しているところです。 そこで、本会では歯科医療従事者はもとより、国民にもわかりやすく周知していくために、オーラルフレイルに関する考え方を昨年12月に一部修正し、まずは「予防」ではなく「理解」することを目指し、以下のとおり発表しました。健康長寿を支える「8020運動」と「オーラルフレイル」の予防日本歯科医師会 から見た“オーラルフレイル予防”

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