デンタルアドクロニクル 2017
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78 特別座談会安田 本日は「超高齢社会での歯科医療の在り方を再考する」というテーマでディスカッションしていきたいと思います。 ご承知のとおり、これだけ高齢化が進みますと、今までのような歯科医院の体制と違うことを考えなければならなくなります。そこで、今回は高齢者の歯科医療を3つのステージに分けて考えてみましょう。まず「通院可能期」を上田貴之先生、「通院困難期」を須貝昭弘先生、そして最後に要介護期、すなわち「口腔ケア期」については本間久恵先生に解説していただきたいと思います。高齢者の口腔機能評価上田 東京歯科大学老年歯科補綴学講座の上田貴之と申します。私は普段は水道橋病院の補綴科で診療をしていますが、教育の担当としては総義歯学と老年歯科医学になります。昨年の3月まで約10年間、都内のリハビリ病院にて週1回、回復期の患者さんを診療していました。今日の私のテーマ「高齢者の口腔機能評価」はこのようなバックグラウンドもあって選ばせていただきました。 臨床の場では、初診の際に「今日は、どうされましたか?」と聞くことから始まることが多いと思います。高齢者からは「義歯が古くなったから、作り直したい」、「歯が擦り減ったから、直してほしい」、「顎がやせたので、新しくしたい」といった主訴が返ってくることが多いですが、それが本当の主訴であるかをきちんと確認しましょうという話をしています。上記の3つの答えは自己解釈モデルになります。そこをもう一歩踏み込んで、「なぜそう思われるのですか?」という問いをすると、実は「義歯が古くなった」→「噛み切りにくくなった」、「歯が擦り減った」→「お肉が食べにくいので」、「顎がやせた」→「義歯が外れやすくなったので」となります。このように本当の主訴を聞きだす工夫を教えています。これは新しい義歯をつくっても主訴が解決されないといった状況を防ぐことになり、実は義歯の問題ではなく、口腔機能が低下していたという事象が浮き彫りになることもあります。 口腔機能の評価には咬合紙を使う方法や、ピーナッツを使ったManly法などがありますが、最近は咬合接触状態の検査機器や咀嚼機能の検査機器も多く臨床応用されています。しかし、これらを使った検査結果がすべてを表しているわけではなく、患者さんが本当にどのような改善を求めているのかを見極める目安として活用することが重要です。佐藤裕二先生のつくられた咀嚼機能評価表を使えば、患者さん自身がどんな食品が食べられ、どんな食品が食べられないと感じているかを知ることができますし、それを数値化できます。また、face scaleで気分の評価も可能です。20が最高にハッピーで1が悲しみのどん底の状態を表しますが、これによって今の患者さんの心理面を含めた口腔の状態を知り、アプローチ法を考えることもできます。私はこの2つは必ず使うことにしていて、術前・術後評価に活用しています。 患者さんが実際に食べているところをみることも重要で、外来でレトルト米飯を使って実際にどのくらいの量がひと口なのか、どのように口腔内に取り込んでいるか、どこに問題があるのか等をみせていただくこともあります。その際は、スプーン等で食べものをすくって口に運んでいくところから飲み込み終わるまでを観察するようにしています。咬合接触状態や咬合様式も大切ですが、患者さんの咀嚼運動を観察することが基本です。また、最近では保険診療にも収載された舌圧計などを使用することで機能低下を数値で表してくれますから、その回復のために舌機能訓練用の器具や舌接触補助床(PAP)なども活用できます。もちろん舌だけをみていればよいわけではなく、咀嚼運動のように機能と力をみる必要があります。とくに幼児期などは、母乳を飲むのに口唇を使うわけですが、そのあとも口唇は非常に重要な役割をもっていて、口唇をしっかりと閉鎖できなければ食品の摂り込みもできませんし、食事中に食塊を保持することもできません。飲み込むときにも口腔内を陰圧にするにはきちんとしたリップシールがないと不可能です。さらに口唇は発音にも影響を与えます。たとえば両唇音のパ行などです。 口唇の閉鎖力を評価することも重要で、われわれは松風の『りっぷるくん』を活用しています(図1)。これを患者さんに咥えていただいて引き抜くことで口唇閉鎖力を測っています。この検査機器自体は新しいですが、もともとの発想は「ボタンプル訓練」からきています。学生のころから機能と力を測る習慣をつけるように指導していて、「りっぷるくん」による検査は東京歯科大学の病院や学生実習でも使用しています。機能低下がみられた場合には『りっぷるとれーなー』(図2)も活用してセルフトレーニングをしてもらっ図1 口唇閉鎖力測定器『りっぷるくん』(松風社製)。図2 ボタンプル訓練に最適な『りっぷるとれーなー』(松風社製)。

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