デンタルアドクロニクル 2017
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79超高齢社会での歯科医療の在り方を再考するています。 最近のトピックとしてはポリファーマシー(polypharmacy)が問題視されています。おおむね5つ以上の薬剤を長期服用している状態をいいますが、口腔領域では「オーラルディスキネジア」(下顎不随意運動)を惹起するといわれています。こういったこともきちんと聴取しておくべきでしょう。当然必要があって飲んでいる薬剤を急に止めるわけにもいきませんので、きちんと医師と相談して、口腔の症状を理解してもらう必要もあろうかと思います。 義歯安定剤に関しましては、機能回復に使えるものは使うといった風潮になってきました。利点・欠点を考慮して1つの選択肢とすることになり、学生時代からきちんと教育するようになりました。唾液量の低下、口腔乾燥にも注意しましょう。患者さんに適した食形態の提案も必要です。たとえばユニバーサルデザインフードやスマイルケア食などが挙げられます。こういったことも学生教育に取り入れています。ここでまとめますと、食べられないというのは、単に噛み砕けないということではなく、食べられない食品の評価であったり、食べられない原因の評価や機能低下に応じた対応が必要になるということです。口腔機能の低下を考える場合、私たちはどうしても粉砕、噛み砕くといった機能を重要視しがちですが、さまざまな機能低下が組み合わさって色々な障害を引き起こしています(図3、4)。図5は日本老年歯科医学会が昨年10月に発表した「口腔機能低下症」の診断基準です。口腔機能障害の一歩手前、すなわち若干の機能低下したところから歯科医師が診断して、「口腔機能低下症」という診断名を付けていこうとするものです。厚生労働省では歯科医療の将来予測として、修復治療や義歯といったいわゆる歯の形態の回復は減っていって、高齢者型といわれる口腔機能の回復が増加するというモデルをイメージしています。安田 高齢者の口腔機能評価ということで、上田先生が大学で学生に実際に教えておられること、それから研究されたことを報告していただきました。他の先生から質問はいかがでしょうか?須貝 今まで、食べられないというのは義歯のクオリティが低いからと考えられてきた部分もあると思いますが、そうではないということが今のお話を聞いて理解できました。こういったことも早いうちから学生に教えていくことも重要だと思います。その分、義歯のことを適当に考えられるのも困りますが(笑)。義歯のクオリティもかなり咀嚼機能に関係していると思いますので、全体として考えなければいけませんね。上田 私は補綴科にいますから、より口腔機能咀嚼嚥下発音呼吸唾液構音障害脱水低栄養口腔乾燥誤嚥性肺炎窒息認知症QOLの低下転倒図3 口腔機能とは?図4 口腔機能低下により引き起こされる障害の例。図5 「口腔機能低下症」の概念図(文献1より引用)。社会性・生活の広がり低下口腔リテラシー低下(口腔への関心度)滑舌低下わずかのむせ・食べこぼし噛めない食品増加う蝕・歯周病歯の喪失意欲低下・うつ総微生物数:6.5Log10(CFU/mL)以上(細菌カウンタ)口腔乾燥口腔不潔口腔水分計:27.0未満(ムーカス)咀嚼機能低下グルコース濃度: 100 mg/dl 未満(グルコラム)嚥下機能低下EAT-10合計点数: 3点以上摂食嚥下障害低舌圧咬合力低下咬合力:200 N未満(デンタルプレスケール)最大舌圧:30 kPa未満(JMS舌圧測定器)舌口唇運動機能低下オーラルディアドコキネシス: 6回/秒未満専門的な対応オーラルフレイル口腔機能低下症口腔機能障害地域保健事業・介護予防による対応 ポピュレーションアプローチ 歯科診療所での対応咀嚼障害

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