デンタルアドクロニクル 2017
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81超高齢社会での歯科医療の在り方を再考するかかりつけ医がはじめる在宅歯科診療須貝 最近、よく考えることは、1人の患者さんと永くかかわるのが歯科医療であり、歯科の特長は患者さんが連続して来院するという珍しい科だということです。 図6はもう亡くなってしまいましたが99歳、女性の口腔内です。25歯残存でしたので健康な人生だったと思いますが、この患者さんの後もずっとつづいていきます。まず娘さんが来て、娘さんの旦那さんが来て、孫、ひ孫の代までつづくわけです。珍しい科ということを象徴していますね。他の診療科ではおそらくないだろうと思います。 たとえば図7は私が28歳のときにはじめて担当した患者さんですが、58歳になった今でもつづけて来院されています。患者さんは51歳から81歳になられました。口腔内はすれ違い咬合で非常にシビアなケースですが、色々な治療で噛む機能を維持しています。患者さんは自分のような思いをさせたくないということで3歳のお孫さんも連れてきて、今20歳になりましたが図8のような健全な歯列になっています。このように1人の患者さんが来院されればその家族もつづくといったような他の科ではありえないことが歯科には起こっているわけです。 私たちかかりつけ医は乳幼児期からはじめて、学齢期、成人期、高齢期までみていくわけですが、今まで要介護期は知らん顔をしていました。しかしここ数年は介入せざるをえなくなってきました。図9の患者さんは67歳から93歳までみているわけですが、72歳の頃に補綴をやり直しました。義歯が長くもつようにメインテナンスをしていきましたが、だんだん高齢になるとともにブラッシング能力も落ちてきて、せっかく合わせたマージンも上がってきて、結局何をやったのかということになってきました。83歳のときに動揺度が高くなり1を抜歯し、ブリッジを装着しましたが、その頃から心疾患・腰痛で通院困難になりました。今まではここでこの患者さんとのかかわりは終わりになるわけですが、これからをみなければならないのが現在の超高齢社会の歯科的課題です。実際によく高齢の患者さんから「身体の具合がよくなったらまた伺います」という電話をいただくわけですが、普通はそこから健康状態が好転するとは思えませんので、かかわりが終わることになります。 しかし、かかりつけ医として在宅診療も含めてこの後もかかわりたいと思うようになりました。しばらくして訪問診療に伺うと図10のような口腔内になっていまして、がっかりしました。今まで何をやってきたのかと…。現在は、月に1回口腔ケアに行っていて、93歳の現在の様子が図11です。1996年にピカピカの義歯をつくりましたが、増歯して現在も使用しています。初診から通いつづけてくれた患者さんに対して、この先に私たちがやらなければならないことだと思っています。これらは診療室の先にある在宅歯科診療ということができます。こういったことができますよ、というアナウンスをしたところ、多くの反響がありましたが、その要求のほとんどが義歯の不具合でした。 図12は歯科医師会の要請で本間さんと一緒に行っている特別養護老人ホームの様子ですが、行ってみて一番感じたのは口腔内の汚さです。とにかく口腔ケアをしなければならない状況です。主に行っているのは義歯の不具合、口腔ケア、根面う蝕への対応です。義歯の不具合への対応は義歯修理、リベース、ティッシュコンディショニング、義歯新製、義歯調整などです。根面う蝕への対応は診療室ではコンポジットレジンですが、訪問先ではグラスアイオノマーになります。ある程度コントラを使って削ることができればよいのですが、在宅の現場では難しいので、グラスアイオノマーが便利です(表1)。充填すれば食物残渣が残らないようにすることができます。このように在宅診療をはじめましたが、私のなかでは診療室の延長線上にある診療と位置づけています。しかし、現在は摂食嚥下リハビリ・栄養にかかわる診療が歯科に求められていると感じています。ただし、これはハードルが高くて、なかなか手がでません。まずは診療室の延長線上にある診療と考え、かかりつけ医がちょっとした道具をもっていけばできることですので、そこからはじめればよいのではないでしょうか? それで興味があれば、摂食嚥下リハビリ・栄養にかかわる診療へ進めばよいと思います。今は地域の市民公開講座や多職種が集まる勉強会にも顔図9a、b 1991年初診。67歳、女性。72歳時の口腔内と製作した上顎の義歯。この後、93歳の現在までかかわりをもつことになる。72yab図10 患者90歳。初訪問時の口腔内。90y(訪問時)図11 口腔ケア実施後の現在の口腔内(患者93歳)。93y

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