デンタルアドクロニクル 2018
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8巻頭特集1-2超高齢社会の“歯科訪問診療”を考える 2018Dr. Kouhei Teramoto寺本浩平(てらもと・こうへい)2000年、日本大学歯学部卒業、同年日本大学大学院歯学研究科入学。2002~2003年、カナダ・トロント大学歯学部留学。2004年、日本大学歯学部摂食機能療法学講座助手。2008年、トロントRehabiritation Institute留学。2011年、日本大学歯学部摂食機能療法学講座兼任講師。2012年、寺本歯科クリニック開業(東京都)。日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士、日本老年歯科医学会。まずは行ってみてほしい "歯科訪問診療"と聞くと、専門的な知識や機器が必要になり、非常にハードルが高いと感じる先生もいらっしゃるかもしれません。ですが、私はよくこう言っています。「まずは、歯ブラシ1本持って行ってみてください」たとえ、持って行くのが歯ブラシ1本だったとしても、口の専門家である歯科医師が行くことの意義は大きいことをぜひ理解していただきたいのです。 2016年の日本人の平均寿命は、女性が87.14歳、男性が80.98歳です。これだけ長寿になると、最後の最後まで患者さんが自分の足で歩いて歯科医院に通うということは難しいでしょう。また、脳血管疾患などの病気で要介護状態となる方もいらっしゃいます。今、外来で診ている患者さんたちも、その人生のどの時点かで必ず、通院できなくなる日が来ます。そして、そういった方たちに差し伸べられる手がまだまだ足りないのが、歯科の現状なのです。 私は、大学院で補綴学を専攻し、卒業後カナダへ留学して痛みの研究を行いました。そして、帰国して学位を取った後に、設立されたばかりの日本大学歯学部摂食機能療法学講座に縁あって入局しました。当時は、「嚥下評価」「摂食嚥下リハビリテーション」などを歯科が行うことの認知度はあまり高くなく、手探り状態の日々でした。また、地域医療の担い手として1歩踏み出してほしい大学の授業でもそういった事を学ぶ機会はありませんでした。今では、その状況もだいぶ変わってきています。歯科が「食べること」や「飲み込むこと」にかかわる有効性が注目され、病院や介護の現場で歯科医師や歯科衛生士がそれらを行うことは珍しい光景ではなくなりました。嚥下内視鏡(VE)検査を介護職の方や患者さんのご家族からお願いされることもあります。最近では、歯科による「食支援」という言葉もよく耳にするようになりました。 それ自体は喜ばしいことだと思っていますし、歯科が取り組むべき重要な仕事です。しかし、その重要性ばかりが強調されるのも少し違うのではないかと感じています。また、そのせいで歯科訪問診療を行うハードルが開業医から見て高く感じられ、二の足を踏んでいる方がいるとしたら残念なことです。なぜなら、嚥下の評価やリハビリテーションの前にできることはたくさんあるからです。歯科医師がその場に行くだけでできることはある でもこれは、自分も開業して地域の患者さんのお宅に訪問するようになって初めて、気づいたことです。 たとえば、こんな患者さんがいまし図1 特別なことではなく、介護職員さんに口腔ケアの一端を歯科衛生士が指導することだけで現場の期待に十分寄与することができます。ポータブルユニットよりも歯ブラシ1本を!から見た“歯科訪問診療”

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