デンタルアドクロニクル 2018
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超高齢社会の“歯科訪問診療”を考える 2018  巻頭特集113高齢者歯科医療チームとして取り組むために必要な知識と技能とは 超高齢社会における高齢者歯科医療および口腔保健事業は、従来の歯科診療体系にとどまらず、要介護・有病高齢者に対する口腔機能管理や口腔衛生管理などの積極的介入が重要となってきた。超高齢社会に対応できる口腔保健の専門家が必要であり、口腔機能管理における専門的知識と技術はもちろん、高齢者に対する知識や介護技術を習得しておくことが望ましい。 そのためチーム内でも連携に対応できる知識と技能を涵養し共通認識をもって取り組むため、開設当初より①診療前後のミーティング参加、②医局主催学術講演会参加、③患者急変時初動対応におけるチームアプローチを習得するためのBLS講習会参加、④歯科医師とともに取り組んだ症例報告の場であるケースプレゼンテーションの演者、⑤日本老年歯科医学会学術大会参加を歯科医師・歯科衛生士とともに歯科技工士にも義務づけている。 具体的には、①全身的な予備力の低下した要介護者に対する限られた時間での診療でもあり、患者情報を把握し全身状態・模型上では知りえない手指の巧緻性や麻痺・拘縮など障害の有無の確認および口腔に関しては歯科技工士との顎運動の観察や義歯機能形態付与のための観察による早期の機能回復に向けた連携への情報交換を行う。②要介護者へ向けた業務の多様化に対応できる人材育成のため、また共通認識・共通言語を増やすため学術講演会を開催し歯科医師・歯科衛生士とともに歯科技工士の参加も義務としている。③在宅療養要介護者のみならず予備力の低下した要介護高齢者への歯科医療サービスであるため、患者急変の可能性もあり初動対応習得のための研修に参加を義務付けている。④歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士のおたがいの専門性確認の場でもあり、症例をまとめ発表することでの共通認識の確認をしスキルアップを図っている。⑤社会的ニーズに応えるため情報収集・情報発信を行うため学術大会参加を義務付けている。第24回および第26回日本老年歯科医学会学術大会では「当会高齢者歯科専門外来における歯科技工士の役割」という演題名にて合計5演題を歯科技工士が情報発信を行っている。 通常の診療より要介護・有病高齢者に対する歯科医療サービスを行う際の「共通認識」「共通言語」を増やしていた結果が、冒頭の症例のように歯科訪問診療の現場でお互いの専門性を生かし円滑に結果を出す形になったと思われる。 歯科技工所勤務であった歯科技工士が診療所にはじめて勤務した際の感想としては、「ラボにいて模型を見ているのとは違った新鮮さがある」というニュアンスの言葉が多く、さらに歯科訪問診療の現場に出ると「普段行っている業務とは違った工夫が必要であることが分かった」との言葉を聞くことが多い。 従来の歯科診療体系にとどまらず、在宅療養要介護高齢者への積極的な介入が重要となった現在、対象者の早期の機能回復とりわけ「食の確保」によるQOLの向上を行うためには、歯科技工士も歯科医師・歯科衛生士とともに要介護・有病高齢者の診療現場を把握することが有効であると認識しており、今後も「共通認識」をもって予備力の低下した要介護高齢者の歯科診療に取り組んでいきたいと考えている。図1a 来院困難となった高齢男性患者の口腔内写真。在宅のまま、旧義歯の増歯を希望された。図1b 旧義歯の取り込み印象。強度の低い速硬性の石膏(キサンタノ)を使用するために、印象体に楊枝を立てている。このような、歯科技工士による臨機応変な対応が歯科訪問診療では求められる。図1c、d 口腔内装着時、歯科医師とともに歯科技工士も帯同して適合と機能を確認した(担当歯科医師:和田光利氏〔神奈川県開業〕、担当歯科技工士:武田 悟氏〔横浜歯研〕。本症例は「QDT」2015年12月号より引用)。cdab

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