デンタルアドクロニクル 2018
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14巻頭特集1-5超高齢社会の“歯科訪問診療”を考える 2018歯科訪問診療の問題とは 一般社団法人 日本訪問歯科協会 理事長の立場から言わせてもらいますと、実際の歯科訪問は重労働です。まず、重い器材を訪問先に運び込むのも大変ですが、患者さんは医院にある普通のチェアではなく介護用ベッドに休んでいるためケアする側の姿勢も悪く、長時間行うのは決して楽ではありません。それを一日に何件もこなしてから自院へ戻り、すべての器具を滅菌処理して明日の歯科訪問に備えるのです。正直なところ、いまの規定されている報酬では割に合わないのが現状です。そもそも医院のマンパワーがなければできないことですし、院内の診療を止めて歯科訪問で外に出て行ってもそれに見合うだけの対価が得られていません。これが現在の歯科訪問診療が抱えている問題です。インプラントと歯科訪問診療の両方に注力してやっている歯科医師が少ないのも、このような背景があるからだと思います。訪問歯科におけるインプラント治療者に関するアンケート そうして問題になるのが、歯科訪問診療の現場でインプラントをよく知っている歯科医師が不足しているというケースです。歯科訪問診療実施者のうち約3割がインプラント治療を行っていない歯科医師で、彼らはインプラントに関して「観察」を選ぶことが多く、十分な対応ができていないというデータもあります(公益社団法人 日本口腔インプラント学会研修推進委員会.歯科訪問診療におけるインプラント治療の実態調査 報告書.2016.)。 ここで見てほしいのが、「訪問歯科におけるインプラント治療者に関するアンケート」(右頁表)です。ここでは日本訪問歯科協会の会員851施設にアンケートを実施し、計227の回答があったものから抽出して掲載します。歯科訪問診療中にインプラント患者の診療を行った割合は約55%で、そのうちの9割以上が口腔ケアを行ったとのことでした。その内容についてはQ3をご覧になってください。進んで、インプラントを撤去した割合は17.1%と決して低い数字ではないと思います。その理由の多くが、骨結合が失われている、あるいは骨吸収や疼痛が大きいためでした。 アンケートの中には、下顎前歯部のインプラントが周囲炎を起こし撤去を試みたが下顎骨が薄く、骨折の可能性もあって中止し、結局対症療法を余儀なくされたとの回答もありました。こうしたところに行きつく前に、われわれインプラント治療をする医療者は何らかの手を打たなければなりません。歯科訪問診療の現場で特に何が問題となっているのか 私の患者さんには、現在歯科訪問診療を受ける状態になっていても、それまでにきちんとインプラントのメインテナンスを受けて、90歳を超えても噛めて機能している方もいます。インプラント治療をして、何らかの理由で通院ができなくなって口腔ケアを定期的に行っていない患者さんでトラブルが多くなっているのです。 たとえば、さきほどのアンケートにもあったようにインプラントを抜去する場合は、全身状態を把握している主治医への相談が不可欠です。X線で見ても何のインプラントシステムが入っているのかがわからない場合が多いので、埋入した歯科医師への確認が必要になります。あるいは、本人が自分のインプラントの情報を持っていれば、新しく担当する歯科医師はやりやすいですよね。インプラント手帳やカード、あるいはうちの医院では治療する時の契約書にすべて記してあります。施設から見た“歯科訪問診療”口腔内のインプラントの情報を.患者と医療者で共有できる.システムの整備が急務守口憲三(もりぐち・けんぞう)1976年 岩手医科大学歯学部卒業1979年 守口歯科クリニック開業1997年 日本訪問歯科協会 会長2003年 歯学博士Dr. Kenzo Moriguchi

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