デンタルアドクロニクル 2018
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超高齢社会の“歯科訪問診療”を考える 2018  巻頭特集115に入る時に、本人や家族が「口腔内にインプラントが入っている」と伝えていても、受け入れた施設の人間がどうケアしていいかわからない問題は残っていますから、情報を共有できるシステムの整備が急務です。歯科訪問におけるインプラントのケアは院内と変わらない インプラントは歯髄も歯根膜もない、天然歯とはまったく機構の異なるものであることを忘れてはなりません。私も口の中にインプラントが6本入っていますが、本当によく噛めるし、何でも食べられます。機能回復という面で、インプラントは非常にすぐれています。ただし、メインテナンスを怠ると、インプラントが周囲の組織に悪影響を及ぼすようになってきます。インプラント周囲炎になってしまうと根本的な治療方法が確立していないためにリカバリーや清掃が困難をきわめるので、その前にメインテナンスしやすい形態にしておいたり、上部構造を作り直したり、調整、長持ちできるものに変えておくことが重要です。そういったことを考えると、歯科訪問診療でも日常の外来と大きく変わりはないのではないでしょうか。患者が後年、“歯科訪問診療”を受ける可能性が高くなっている現在、インプラントロジストは何を考えて治療を行えばよいのか? いまの日本の超高齢社会を鑑みると、インプラントを埋入した患者が後年、高齢化して“歯科訪問診療”を受ける可能性が高く、それを見据えたインプラント治療をすべきだと考えています。つまり、今のインプラントロジストは、点と線と面を考えて治療を行うべきです。私の言う【点】とは最初の治療の時点で、【線】とは年齢を重ねてさまざまな病気をともなうことです。そして【面】とは患者さんの体全体、つまり全身状態を指します。患者さんが健康な時だけを考えて治療するのではなく、後になんらかの全身疾患になってしまう可能性も想定して、やり替えがきくような形態にして、長期的な視点でインプラント治療を行うべきだと考えています。患者さんは年を重ねるうちにやがて病気を抱えるようになり、インプラントにとって理想的な環境ではなくなってきます。 たとえば、若い女性が審美性を求めてインプラント治療を希望することもあるでしょう。それ自体はもちろん悪いことではありませんし、歯科医師はその要望に全力で応えるべきです。けれど、時が経つにつれて咬合や機能を重視したメインテナンスやケアにしたほうがよいでしょう。歯科訪問診療が必要な患者さんを増やさないために、歯科界として何ができるか? 今回のテーマの前の段階になりますが、歯科訪問診療が必要になる前に、そしてさらにその前を考えると、オーラルフレイル状態(虚弱)にさせないために、歯科ができることは何かに行きつきます。このことは講演などで私もよく言及するのですが、運動する時におもに使うのは下半身で、これは2時間で疲れてしまいます。腕などの仕事でよく使う上半身はせいぜい7~8時間。しかしそれより上の頭、つまり顎口腔機能はどれだけ動かしても疲れないのです。高齢者も口と顎を動かしているだけでは疲れません。そういう体を作るために、ちゃんと食べることや食事指導も重要ですし、そのために機能を回復するインプラントは人間の健康に大きく寄与できる可能性を持っています。Q4 インプラントを撤去しましたか?撤去経験あり撤去経験なし計有効回答数22101123割合17.9%82.1%100%Q5 インプラントを撤去した理由はなんですか? インプラントはどのような状態でしたか?・動揺が強い(骨結合がない)※、骨吸収が大きい、疼痛がひどい...............13件(61%)・対顎の歯肉を噛んでいたため、上部構造を撤去.............................................5件(23%)・インプラントの破損、オーバーデンチャーの破損...........................................2件(8%)・その他、口腔外科に依頼......................................................................................2件(8%)※フィクスチャーが根元まで露出し、骨との結合がまったくない状態でプラプラと動いていた。 いつロストして誤嚥してもおかしくない状況だったので、説明したうえで撤去したことがある。<撤去を行わなかった理由>下顎前歯部のインプラント周囲炎が見られ、消炎療法をしていたが、口底炎になった。インプラント除去を試みたが、下顎骨が薄く、骨折の可能性もあって中止した。総合病院の口腔外科を紹介して撤去を依頼したが、CTなどの検査の結果、中止の返事。 対症療法をするようにとの判断となった。訪問歯科におけるインプラント治療者に関するアンケート集計報告Q1 訪問診療で、インプラント治療をされている患者さんの診療を行ったことがありますか?経験あり経験なし計有効回答数123100223割合55.2%44.8%100%Q3 どのような口腔ケアを行いましたか?・ブラッシング/歯間ブラシ/ワンタフトブラシ /インプラント用チップを使ったスケーリング ..........................................................97件(87%)・ペリオフィールなどの抗菌剤も使用.....6件(5%)・レーザー/ペリオウェーブ............4件(3.5%)・消毒・観察のみ................................5件(4.5%)Q2 その患者さんにインプラント部分の口腔ケアを行いましたか?行った行わなかった計有効回答数11211123割合91.1%8.9%100%

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