デンタルアドクロニクル 2018
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16巻頭特集1-6  超高齢社会の“歯科訪問診療”を考える 2018Dr. Tomoyuki Goto五島朋幸(ごとう・ともゆき)ふれあい歯科ごとう代表。歯科医師。日本歯科大学歯学部卒業(歯学博士)。1997年より、妻(歯科医師)とともに歯科訪問診療を開始。2003年、東京都新宿区にてふれあい歯科ごとうを開院。2009年、新宿食支援研究会を発足、代表を務める。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。日本歯科大学東京短期大学歯科衛生士科講師。患者さんに「食べる喜び」を取り戻してあげたい 近年、要介護状態の高齢者の増加にともない、歯科訪問診療のニーズも増えてきています。「いままで通ってくださっていた患者さんが、高齢になって来られなくなったのを何とかしてあげたい」といった理由から、新たに訪問診療をはじめた、またはこれからはじめようとしているかたも多いことでしょう。 私が訪問診療をはじめたのは、約20年前の1997年。当初は、私と家内の2人だけで診療を行っていましたが、いまでは歯科衛生士3名と管理栄養士とともに、毎月約80人の在宅のかたを診させていただいています。移動はもっぱら自転車で、荷台に診療道具を載せて、毎日、雨にも負けず風にも負けず走り回っています(さすがに大雪の日は電車ですが)。 そんななか、私が訪問診療において目標としてきたものは、患者さんの「食べる機能の維持・回復」です。もちろん、患者さんの状態によっては厳しいこともありますが、少しでも食べる喜びを取り戻してもらおうと取り組んできました。口腔ケアは刺激が肝心 食べる機能の維持・回復のカギを握るのが、皆さんよくご存じの「口腔ケア」です。義歯の修復・調整で噛める環境を整えながら、口腔ケアで食べる機能のリハビリを行っていきます。 ですがこの口腔ケア。単に「口腔を清潔にするためのもの」と誤解されていることがあるようです。もちろん、口腔内がきれいになるのはいいことなのですが、口腔ケアの本当の意味は、「口を刺激することによって、飲み込み能力を高める」ことにあります。 飲み込みがよくなるから、誤嚥が減り、肺炎になる危険性が減る。それが口腔ケアが誤嚥性肺炎の予防になる理由です。刺激をして、失われた口の機能を立ち上げることが口腔ケアの最大の目的であり、口腔内がきれいになり、細菌が減るのはその過程に過ぎません。 口が動かなくなるというのは、長い間刺激を受けていないというケースがものすごく多いのです。脳と口、舌も含め、神経機構は密接につながっています。寝たきりでしゃべっていない、胃瘻で食べていないというのは、これらを全部使っていないことになります。 ですから、刺激をして、口の中で神経をつないでいく必要があります。歯肉や粘膜、舌への刺激やマッサージにより、低下した「飲み込む力」を目覚めさせるというのも、口腔ケアの目的なのです。そのため、口から食べていない胃瘻のかたにも口腔ケアは必要です。胃瘻だからしなくていい、というのはおかしいのです。食べる機能の維持・回復こそ私たちが目指すものから見た“歯科訪問診療”寝たきりの高齢患者に対する歯科診療のようす。最期まで口から食べることを支えるために、口腔環境を整え、口腔機能を維持・向上することに努める。

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