デンタルアドクロニクル 2018
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今後求められる人工歯とは 松風人工歯の変遷からみる、超高齢社会における多様なニーズへの対応83で、3年前からデンチャーコースを担当させていただいています。鈴木先生のお話のように、今まさに時代は高齢化の波が来ています。一時、欠損補綴=インプラント一辺倒の時代があったように思いますが、その反動からなのか、本当に義歯に対する揺り戻しが来ているように思います。 さて、人工歯に対する私の希望ですが、先生方とまったく同意見です。私もVeracia SAの陶歯を使わせていただいていて、確かにこれで長持ちすればよいと思っていました。昨今、インプラント治療が本当に一般的になりまして、対合がインプラントの片側性義歯といった場合にVeracia SA Porcelainを使いますと粉々に粉砕してきたという経験をしました。対合が天然歯であったり、セラミックスであったり、さらには金属であったり、異種材料は難しいというのが私の意見です。上下総義歯の患者さんであれば、同一の材料を使えるので多少はよいと思いますが、とくに日本の場合、異種材料が混在している患者さんもたくさんいらっしゃいますので、第一に人工歯の耐久性も考えていただきたい。 私自身、義歯の患者さんにも、咬合面材料としてジルコニアを試しています。たとえば、図O-1は下顎が天然歯のブリッジ、上顎はパーシャルの症例ですが、図O-2のようなブレードになる形のリンガライズドのジルコニアを使っています。まだ経過が短いので、セラミックスがまた負けるか、はたまたジルコニアが負けるかはわかりませんが、ブレードの部分は後で交換ができるように考えて設計しています。 以上のことから、耐久性と異種材料に対する対応がされている人工歯が望ましいと思います。鈴木 ありがとうございます。出口さんどうでしょうか。出口 先ほど、対合歯によって人工歯を使い分ける必要があるのではないかという意見が上がりました。われわれも同一形態のなかで、セラミックス、硬質レジン歯、あるいは新しい材料を使い分けることが必要ではないかと考えています。 もう1点は、咬耗を想定した層構成、すなわち琺瑯部はある程度の硬さで、患者さんの生活のなかでの咀嚼機能で安定させることができるのではないか? 象牙質部は琺瑯部よりも少し硬い材料を用いたり、また今までにない機能を維持する超硬質材料の必要性を感じ、取り組んでいます。松田 一方で陶歯は、咬合時の音が気なるという指摘や、咬合紙の印記がつきにくく、咬合調整が難しいといった問題が考えられます。やはり、新しいブリッド材料の開発に期待したいですね。鈴木 先ほど「天然歯より美しい」という、堤先生から非常によい言葉をいただきました。私が臨床を始めた頃は、まずA3を選んでいました。最近はA3を選ぶことはほとんどなくて、A2が多くなってきました。場合によってはA1を希望されることもあります。患者さんはずっと白いものを選ぶ時代になりました。先ほどの透明性の問題もかなりある気がします。 堤先生はどのような人工歯を「天然歯より美しい」とお考えでしょうか(笑)。堤 メーカー側としては、A1、A2というシェードガイドに限りなく合わせることをされているようですが、われわれユーザーの立場ですと、漠然とちょっと濃いめに、明るい、白い、「美しい」と(笑)。技術がなくても、よい人工歯を使いますと、義歯が商品価値としては上がりますので…。鈴木 形としては、たとえば、インプラントでもオーバーデンチャーでも割れない構造も必要との話もでましたが…。奥野 インプラントやオーバーデンチャーでも破損に耐えうるとなると、アタッチメントや補強構造の存在を考慮しないといけません。厚みが薄くて割れず、しかもきれいなグラデーションで再現するとなると、物性としてはかなり難しいものということになります。堤 私は、インプラントの対合歯に関しては品質保証しません。「それでもつくってほしい」ということならつくりますが、まったくブレーキのついてない自動車をつくるようなものです。総義歯で30年みているケースはありますが、インプラントに対合するデンチャーで30年は……。奥野 それはもたないですね。堤 これからもきっとないでしょうね(笑)。奥野 私は、早くに壊れそうな部位をあらかじめ提示しておいて、時期が来たら交換する。事前に予防するではないですが、患者さんにお伝えしたうえで治療させていただくようにしています。 たとえば、CAD/CAMで咬合面をつくったり、メタルティースに置き換えたり、いろいろな試みをしても、やはりトラブルが起こってきます。既製品でそれに代わるものがあれば一番よいと思います。鈴木 「できるだけ楽な人工歯」という意味では、Veracia SAの形態は、私でもある程度楽に排列できて十分ですが、材質的な問題はまだ残りますね。 ただ、これからCAD/CAM時代となりますと、設計をオーダーメイドじゃなくても、セミオーダーで発注できるようになるかもしれません。松風もミリングセンターをおもちですので、生産性という意味ではこれからどんどん変わっていくのでしょう。 今日、これだけ話すと、人工歯って奥が深いなと思わざるをえません。また別の機会に臨床例も含めて続きを話し合いできればと思います。 本日はどうもありがとうございました。

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