デンタルアドクロニクル 2019
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9健康長寿社会の実現に向けて、それぞれのライフステージで歯科ができること  巻頭特集1壮年期は自ずと医院に戻ってくる 常日頃、メインテナンスに力を注いでいるのですが、成人になると、他の医院もそうだと思いますが、日々の仕事に追われ、よほどの問題を抱えていないかぎり、歯のケアのことはどうしても後まわしされがちです。それが50代くらいになってくると老後のことが少し心配になってきて「こんな歯で大丈夫か」と真剣に来院するようになってきます。それは歳をとってくると自分の老後のイメージができるからではないでしょうか。 このように、意識の高い人たちは自分でモチベーションを高めてくるので、こちらが言ったことを熱心にやってくれます。医院としてもどうやってこの歯を守り咀嚼機能を維持していくかを第一に考えていきます。私は治療方針などを押し付けて治療を行うことはしません。自ずと患者さんが変わってくるのを待つようにしています。高齢者には嚥下機能の評価が求められている すべての患者さんに直接来院いただくのがいちばんいいのですが、ご高齢の患者さんのなかには施設に入って来院ができなくなってしまう方もおられます。 先日、もともと当院に通われていた患者さんが施設に入り、その方が入所している施設に往診に行く機会があったのですが、施設の看護師から患者さんの食形態アップを考えているので、嚥下機能の評価をしてもらいたいとの要望がありました。 今まで訪問歯科診療の役目といったら、咀嚼機能の改善と口腔のケアが主な依頼内容でした。しかし、今は嚥下機能が加わって、きちんと飲み込めるところまでを診るのが歯科医師の仕事だと医療施設側は期待しています。実際、嚥下機能の評価まで知らない一般の歯科医師も多いかと思いますが、訪問歯科診療の現場では、嚥下のことまで歯科が診る時代に変わりつつあるといえます。つねにスキルを磨こう このように、他職種の方から幅広い歯科知識が求められたとき、その期待に応えられないと歯科医師として情けない思いになります。歯科にまつわるあらゆる要望に応えるには、われわれ歯科医師は、社会からの要請を敏感に感じ、勉強会に参加したり、文献を読んだりしてつねにアンテナを張り正しい情報を仕入れ、技術や知識の研鑽に努めることが必要です。それには医院全体でスキルアップを図り、患者さんが気持ちよく来院できる体制をスタッフ一人ひとりが作り上げていくことも大事です。 臨床記録もその一例です。当院では、臨床記録ひとつとっても、患者さん一人ひとりにきちんと向き合い、決しておろそかにしません。口腔内写真は必ず全員撮影し保存するようにしています。口の中は来院ごとに変化していくので、ちょっとした変化の異常を見逃さないためにも記録をとることは大事です。 繰り返しになりますが、学生や社会人になると来院が一時途絶えるときがありますが、あるとき「幼いときからの自分の歯の記録が残っている」という記憶がよみがえるのか、再びメインテナンスに通い始めるケースがあります。これは幼い頃からの自分の歯の記録が残っていることが歯科医院の価値を高めているのだと思います。一人ひとりに寄り添える医院を構築し、患者さんの笑顔を引き出す 残念ながら、長らく歯科を受診せずに人生を送ってきている人もたくさんいます。これまで多くの患者さんを診てきましたが、多くの場合、そういう人たちの口の中は気の毒な状態になっています。やはり、メインテナンスに通い続けてきた人のほうが、表情が生き生きしていますし、魅力的な表情を引き出すうえで歯科医師側も患者さん一人ひとりに寄り添える医院を構築していったほうがいいと思います。ただ、患者さんの中には必要に応じて診てもらいたいという方もいるので、その都度、患者さんに合わせたアプローチが必要だとも思います。 どのような形であれ、子どもの頃から長く医院に通ってもらうには、患者さんの人生に寄り添い、なにか困りごとがあったら、こちらができることはフォローするというスタンスでやっていく、それをどの世代にもできるようにしておく、準備をしておくという姿勢を示すことが大切です。(談)図1a~c 三世代にわたり通院しているご家族の口腔内。左から子(13歳)、母親(40歳)、祖母(66歳)。母親は11歳の頃から通院しているが、矯正をしなかったのでスペース不足が原因で歯列不正の状態になってしまった。お子さんは3歳から通院し、拡大床を用いた咬合育成を行ってきたので正常な咬合に成長している。祖母も30代から通院し、定期的にメインテナンスしているのですべての歯が残っていて健康な状態だ。abc

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