デンタルアドクロニクル 2019
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11健康長寿社会の実現に向けて、それぞれのライフステージで歯科ができること  巻頭特集1ができると思います。義歯であっても噛めればよい 次に、義歯を使って咬合力を高めれば栄養摂取のバランスが良くなることを伝えます。 図1は、義歯も含めた全歯列の最大咬合力を用いて、咬合力と栄養摂取との関連を調査した報告3)より、一部の食品群と栄養素の結果を抜粋したものです。食品群では、緑黄色野菜とその他の野菜の摂取量は、咬合力高位群が低位群に比べて有意に多く、穀類は摂取量が少ない傾向がある(有意差なし)というものでした。この結果、栄養素では、ビタミンA・C・Eや食物繊維の摂取量が高位群において低位群よりも有意に多かったとされています。 他にも多くの報告で、咀嚼力が低下すると緑黄色野菜を含む野菜類や魚介・肉などの噛みにくい食品群を避けるようになる一方で、穀類などの噛みやすい食品の摂取が増え、その結果、ビタミン類、食物繊維、ミネラル類やタンパク質の摂取が減少し、炭水化物の摂取が増加すると示されています。 患者さんに対しては、「入れ歯を入れてよく噛めるようになると、バランスよく食べられますよ」など、メリットを実感できるような表現で伝えるとよいでしょう。食事や栄養の偏りが要介護につながる 最後に、食事・栄養の偏りと要介護の関係を理解してもらいましょう。 全国の高齢者を20年間追跡した調査結果から、男女別高齢者の自立度の年齢にともなう変化が示されています4)。それによれば、男性の2割、女性の1割は、70歳になる前に健康を損ねて死亡するか、寝たきり状態になるなど重度の介助が必要になっています。前期高齢者(65~74歳)が要介護となる原因には、いわゆる生活習慣病によるものが多く、特に男性では脳血管疾患が多くなっています5)。 生活習慣病には、内臓脂肪型肥満を共通の要因として、高血糖、高血圧、脂質異常などの複合した病態であるメタボリックシンドローム(メタボ)が関連しています。日本では、現在、食の西洋化や加工食品の普及などにより、軟らかくて高脂肪・高エネルギーな食品が手に入りやすくなっています。このため、食欲が十分な高齢者では、咀嚼力が低下しても低栄養となるのではなく、むしろ過栄養になってメタボが問題になると考えられます。 一方、大部分の高齢者は、骨や筋力の衰えによる運動機能の低下により、70歳代半ばから徐々に自立度が低下し始め、10年ほどかけて日常生活全般に介助が必要な状態になっています。このタイプでは低栄養が問題となることが多く、自立度低下の原因のひとつとされています。高齢者の低栄養は、口腔機能の低下が関係していると考えられており、前述のとおりよく噛めなければ食事内容が偏り、身体機能を維持するために必要な栄養素を摂ることが難しくなります。 「いつまでもお元気でいるために、入れ歯を入れて、食べにくいものを食べられるように」とポジティブな目標を示し、バランスよく食事を摂るよう気を付けていただきましょう。引用文献1.‌Wakai K, et al. Tooth loss and intakes of nutrients and foods: a nationwide survey of Japanese dentists. Community Dent Oral Epidemiol 2010;38(1):43 -49.PMID 199224952.安藤雄一,三浦宏子 ほか.歯の保有状況と食品群・栄養素の摂取量との関連(その1)~平成17年国民生活基礎調査とリンケージした国民健康・栄養調査データによる解析~.厚生労働省科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)口腔機能に応じた保健指導と肥満抑制やメタボリックシンドローム改善との関係についての研究(研究代表者:安藤雄一) 平成23年度総括・分担研究報告書.2012;153 -164.3.Inomata C, et al. Significance of occlusal force for dietary bre and vitamin intakes in independently living 70 -year-old Japanese:from SONIC Study. J Dent 2014;42(5):556 -564.PMID 245898464.秋山弘子.長寿時代の科学と社会の構想.科学2010;80(1):59 -64.5.内閣府.平成29年版高齢社会白書(全体版)3高齢者の健康・福祉.図1 -2 -3 -8,65歳以上の要介護者等の性別にみた介護が必要となった理由. http://www8 .cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017 /html/zenbun/s1_2_3.htm(2018年5月30日アクセス)図1 咬合力と食品群・栄養素摂取量の関係。70歳群(69~71歳)の対象者を、咬合力により「低位群」「中位群」「高位群」と分けて、食品群と栄養素の摂取量を比較した。現在歯数が減っても義歯でよく噛めれば、さまざまな食品を摂取できることが示されている。高低中摂取量(g)力合咬73.967.762.9高低中摂取量(μg)力合咬503465454ビタミンAビタミンCビタミンE食物繊維高低中摂取量(g)力合咬115107100高低中摂取量(mg)力合咬85.079.477.1高低中摂取量(g)力合咬205213215高低中摂取量(mg)力合咬4.44.34.2高低中摂取量(g)力合咬7.97.57.4群品食素養栄緑黄色野菜の野菜その他穀類

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