デンタルアドクロニクル 2019
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13健康長寿社会の実現に向けて、それぞれのライフステージで歯科ができること  巻頭特集1いこと、また補綴部位がごく一部に限られるので、歯科技工士の活躍の場は少ないです。よって、筆者自身が行えることとしては、ワックスや石膏などに触れてもらうことにより、歯科に対して少しでも興味を持っていただくようにすると不安や恐怖心を少しは払拭できるのではないかと思い努めてきました。 思春期も基本的に学童期と同じ傾向にありますが、多感な時期であり、われわれの何気ない言葉に精神的な影響を受けやすいので、その世代の患者さんから補綴物の相談をされたときは、ご自身の歯に関して良い部分を見つけて褒めることを行ってきました。 青年~中年期では、交流の場が増えることで自分の意志によって歯科医院を選ぶようになり、場合によっては複数歯を補綴する患者さんが増えてきます。そのような青年期の患者さんからは、「歯は一度治したら一生もつのか」という問いをよく耳にしてきました。そのような場合、材質的なことに関しては、詳しい説明をするべきだと思いますが、口腔内での長期にわたる状態に関しての予測は、歯科医師に委ねる必要があります。また過去には、歯科医師を飛び越えて、診察の前に歯科技工士と話したいという患者さんが数名おられましたが、どのような内容であったとしても、それは遠慮していただくようにお願いしています。 中年期にさしかかる患者さんは、社会経験が豊富となり安定されておられる方が多くみられるので、比較的スムーズに診療を行えるとともに、提供する補綴治療の成果も充実したものになりやすい傾向にあります。 中年~初老期にかけては、口腔のダメージが多くみられるような患者さんが来院される傾向にあります。実は、この時期の補綴がもっとも重要で、治療全体や補綴装置について患者さんがどのようなことを望むかで、口腔内の将来に差が出てくると思います。大がかりな補綴には、かならずと言って良いほど条件の悪い口腔内の状況がともないます。補綴装置は、部分的になら20~30年といった期間機能させることが十分可能です。自分が携わった中には35年以上の症例はありませんが、それ以上の症例を経験されている歯科医師や歯科技工士の先生方も多くおられます。しかし、一口腔単位の補綴を行った場合に、その機能を長期間維持できるかといえば、難しいのが現状だと思います。初老期を過ぎたあたりに、もう一度補綴装置だけを取り換えれば治療が済むのか、また、まったく違う補綴が必要になるのかを、予測しておいたほうが安心なように思います。 高齢期の補綴では、今までの補綴治療のやり替えか、まったく別の補綴を行う場合が多いようです。この時期からの補綴は、生涯を通じてほぼ最終的なものになることが多いので、将来の健康状態のことも踏まえて補綴装置を考える必要があると思います。そのためには、もしもの場合に修理を行いやすい、なるべく単純な構造を提供することも必要かと思います。歯科技工士の価値を認知していただくために われわれ歯科技工士が提供する補綴装置が、患者さんにとっての幸せな人生の一助となるには、それを製作する歯科技工士が患者さんの喜びを実感することが最善だと考えています。そのためには、歯科医師からの製作指示だけで仕事をこなすのではなく、自ら直接患者さんと接し、どの世代においても患者さんとの会話の中からより良いニュアンスを受け取り、それを反映させるように向き合い、口腔内装着後も責任をもった誠実な対応が求められると思います。それこそが、国民にとって今後の歯科技工士の価値として認知されるのではないでしょうか。図1 本図から図3までは、すべて同一の患者さんを示します。青年期の口元の状態です。図2 中年期に補綴した口腔の30年後の前方運動時の状態です。図3 高齢期にコンプリートデンチャーへと移行した口元の状態です。表情筋が自然な状態であり、最高の笑顔がうかがい知れます。

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