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口中医

【読み】
こうちゅうい
【英語】
oral medicine doctor
【書籍】
nico 2022年8月号
【ページ】
49

キーワード解説

 口中医とは、朝廷や幕府につかえ、歯、舌、咽頭などの口中療治(および内科)を担った医師を指す。平安時代に朝廷医として活躍した名医、丹波康頼(むし歯や歯周病治療の記載のある日本最古の医書『医心方』を編纂)がその先駆けとされる。
 また室町時代に活躍し、『口中秘伝』(丹波家に伝わる口中療治に関する秘伝書)を著した丹波兼康は、朝廷の医官を退いたのち市中で口中科を開き、これを専業としたことから、本邦における口腔専門医の祖といわれている。
 江戸時代になると、口中医は幕府や大名にも抱えられるようになり、幕府の庇護のもと神田に開かれた医学所では、口中医の医官育成のための医学教育が行われた。諸藩も幕府にならい医学所を設けたが、そのなかには口中科を他の医科と分け、口中専門医の養成をはかった山口藩、和歌山藩、高鍋藩などもあった。
 江戸時代にあっても、口中療治は身分の高い者のための医術であり、その広がりはほとんど藩学の域を出ず、庶民の治療を担ったのはもっぱら「歯抜師」「入歯師」であった。
幕末になると、外国人歯科医師の来日と開業により近代歯科医療が伝わり、明治16年に歯科試験科目が定められたことにより口中医の時代は終焉を迎えた。