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2014年5月23日

日本補綴歯科学会第123回学術大会開催

「補綴歯科から発信する医療イノベーション」をメインテーマに

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 さる5月23日(金)から25日(日)の3日間、仙台国際センター(宮城県)において「日本補綴歯科学会第123回学術大会」(佐々木啓一大会長、矢谷博文理事長)が開催された。今回はメインテーマを「補綴歯科から発信する医療イノベーション」とし、従来の補綴歯科はもちろん多職種連携や高齢化を意識した演題がとくに目立つ内容となっていた。以下に、主要な演題の中から4題の概要を示す。

(1)臨床スキルアップセミナー「可撤性補綴装置の支台としてのインプラントの活用を考える」(西村正宏氏〔鹿児島大大学院医歯薬学総合研究科 口腔顎顔面補綴学分野〕、近藤尚知氏〔岩手医大歯学部 補綴・インプラント学講座〕、鮎川保則座長〔九大大学院歯学研究院口腔機能修復学講座インプラント・義歯補綴学分野〕)
 本セミナーでは、西村氏が「可撤性義歯の支持・維持・把持に役立つインプラントの有効な使い方とは」と題し、また近藤氏が「インプラントオーバーデンチャーを適切に機能させるための埋入手術 ―CTデータとPCシミュレーション、サージカルガイドを応用したインプラント埋入手術―」と題しそれぞれ講演。前者では、インプラントおよびアタッチメントの選択やポジショニングについて、義歯の支持・維持・把持の観点から簡明に解説。また、インプラントオーバーデンチャーに与える辺縁形態に関しては従来の総義歯に準じるとしつつ、外斜線部に関しては短めに設定できるのではないかとした。また後者では、インプラントオーバーデンチャーを成功させるためのアタッチメントの選択・応用にとって必須となるインプラント埋入計画について詳説。現在のシミュレーション技術を活かし、サージカルガイドを用いて的確なポジションにインプラントを埋入する方法について示した。

(2)臨床リレーセッション1「補綴臨床におけるCAD/CAMワークフローの現状と未来」(高橋 健氏〔Dental Laboratory Smile Exchange〕、水口俊介氏(医歯大大学院高齢者歯科学分野〕、樋口鎮央氏〔和田精密歯研〕、二川浩樹座長〔広島大大学院医歯薬保健学研究院 統合健康科学部門 口腔生物工学分野〕、前川賢治座長〔岡山大大学院医歯薬学総合研究科 インプラント再生補綴学分野〕)
 本セッションは、これまでの歯冠修復/補綴に対応したCAD/CAMによる「ものづくり」のみならず、CAD/CAMの進化にともなって変わりつつある補綴臨床のワークフロー全体を見通す内容となっていた。会場では、高橋氏が「プロビジョナルレストレーションを活用したCADモデリングの実践と考察」、水口氏が「CAD/CAMによって全部床義歯製作のワークフローはどう変わるべきか」、そして樋口氏が「上部構造のプロビジョナルレストレーションを最終補綴物に置き換えるためのデジタル技術の応用」と題してそれぞれ講演。CAD/CAMならではの、プロビジョナルレストレーション形態の最終補綴物への正確な移行に関する内容や、ますます注目を集めるCAD/CAMによる総義歯製作法にとくに注目が集まっていた。

(3)特別講演1「老いても最後まで生活者たらんために ―補綴歯科医療に期待するもの」(辻 哲夫氏〔東大高齢社会総合研究機構特任教授〕、矢谷博文座長〔阪大大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座 クラウンブリッジ補綴学分野〕)
 本講演では、「柏プロジェクト」(千葉県柏市にモデル地区を設け、住宅政策と連携した在宅医療福祉システムの導入、高齢者のための「生きがい就労」「見守り」など、地域ぐるみで、かつ在宅で高齢者が暮らせる街づくりのためのプロジェクト)で著名な辻氏が登壇。超高齢社会を迎えた現代では、「治す治療」に加えて「支える治療」が必要であることを述べた上で、「虚弱化予防」の概念を解説。8020運動も、この高齢者の虚弱化予防というダイナミズムの中でとらえることを提案した。また、すでに大都市圏では高齢者に対応できる病院・施設の不足が明らかになっており、この点から「高齢者が、在宅で、生活者として暮らしていけるシステムづくり」「老いや死は避けられないが、最後まで生活者としてあることのたいせつさ」「地域を、ひとつの病院として捉えるコンセプト」などについて話題を展開した。そして、歯科との連携に関しては、「まだまだ医科サイドからの働きかけが弱いと」し、歯科からのますますの情報発信が望まれた。

(4)臨床リレーセッション2「サルコペニアの予防と改善に寄与する補綴歯科を目指して ―多職種連携による高齢者の口腔機能、栄養、運動機能の改善―」(飯島勝矢氏〔東大高齢社会総合研究機構准教授〕、菊谷 武氏〔日歯大口腔リハビリテーション多摩クリニック〕、金久弥生氏〔九歯大歯学部口腔保健学科口腔機能支援学講座〕、中村育子氏〔医療法人社団福寿会 福岡クリニック在宅部〕、松山美和座長〔徳島大大学院ヘルスバイオサイエンス研究部口腔保健学講座 口腔機能管理学分野〕)
 本セッションは、昨今歯科領域でも大きなトピックとなりつつあるサルコペニア(sarcopenia、加齢にともなって生じる骨格筋量と骨格筋力の低下)への対応を大きなテーマとし、医師、歯科医師、歯科衛生士、および管理栄養士が共通の視点で、それぞれの立場から解説を行った。会場では、飯島氏が「虚弱・サルコペニア予防における医科歯科連携の重要性:~高齢者の食力を維持・向上するために~」、菊谷氏が「栄養改善を目標とした運動障害性咀嚼障害患者への取り組み」、金久氏が「超高齢社会における歯科補綴治療:歯科衛生士からの提案」、そして中村氏が「在宅訪問栄養食事指導と歯科との連携による栄養改善」と題しそれぞれ講演。サルコペニアを防止、あるいは進行を抑制するために必須となる「口から食べる」という課題に対し、歯科が貢献するためのヒントが多数示された。

 この他、会場では時宜に即した各種セッション・シンポジウム・一般口演・ランチョンセミナーなどが活発に行われた。なお、来年度の本学会は明海大歯学部を主管校とし、大宮ソニックシティ(埼玉県)にて2015年5月29日(金)~31日(日)にかけて開催予定とのこと。