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2015年5月29日

日本補綴歯科学会第124回学術大会開催

2,600名が参集する盛会に

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 さる5月29日(金)から31日(日)の3日間、大宮ソニックシティ(埼玉県)において「日本補綴歯科学会第124回学術大会」(大川周治大会長、矢谷博文理事長)が約2,600名の参加のもと開催された。今回のメインテーマは従来からの「補綴歯科から発信する医療イノベーション」を引き継ぎつつ、さらに「―豊かな食生活のために―」を加えることでより時宜に即した内容とした。以下に、主要な演題の中から6題の概要を示す。

 (1)臨床スキルアップセミナー「口腔機能の客観的評価としての舌圧測定:その意義,開発から展望まで」(小野高裕氏〔新潟大大学院医歯薬学総合研究科包括歯科補綴学分野〕、津賀一弘氏〔広島大大学院医歯薬保険学研究科先端歯科補綴学研究室〕、松山美和座長〔徳島大大学院医歯薬学研究部口腔保健学講座口腔機能管理学分野〕)
 本セミナーでは、小野氏が「咀嚼・嚥下における舌圧の意味」と題し、また津賀氏が「高齢者の口腔機能向上への舌圧検査の応用」と題しそれぞれ講演。前者では、高齢者や有病者に特有の舌圧に関する問題について多数の研究から示した上で、舌圧測定は今後の補綴治療における定量的記録や治療のゴール設定、および補綴装置の選択などに役立つとした。また後者では、JMS社の舌圧測定器を用いた大規模調査の結果、および同じくJMS社の舌トレーニング装置「ペコぱんだ」を用いたレジスタンス訓練により、嚥下障害スコアの改善や舌圧の向上が認められたこと、およびその検査値に基づいたリハビリテーション計画の立案や介護食の選択などについて述べた。

 (2)臨床リレーセッション1「パーシャルデンチャーの設計を再考する」(大川周治氏〔明海大歯学部機能保存回復学講座歯科補綴学分野〕、大久保力廣氏(鶴見大歯学部有床義歯補綴学分野〕、小出 馨座長〔日歯大新潟生命歯学部歯科補綴学第1講座〕)
 本セッションでは、座長の小出氏が「クラスプデンチャーの基本的な設計の在り方」と題して概論を述べた後、大川氏が「パーシャルデンチャーによる咬頭嵌合位と中心咬合位の一致」、大久保氏が「歯に最大限の支持と把持を求める」と題してそれぞれ講演。前者では、顎間関係記録は中心咬合位すなわち機能的に調和した状態の顎位をとらえるもので、あくまでも術者が設定するものではないとした上で、人工歯における中心咬合位と咬頭嵌合位の一致や、下顎が咀嚼時に中心咬合位に導かれる顎位設定などの重要性について述べた。また後者では、まず45年間使用されてきたという部分床義歯を提示。その設計が部分床義歯学的にきわめて妥当であることを示した上で、現在の部分床義歯製作においても成功している義歯に学ぶことが重要だと述べつつ、基本を守ることの意義を説いた。

 (3)特別講演1「食べて治す,食べて癒す」(東口髙志氏〔藤田保健衛生大医学部外科・緩和医療学講座〕、矢谷博文座長〔阪大大学院歯学研究科〕)
 本講演では主に、東口氏がこれまでに携わってきたNST(Nutrition Support Team、栄養サポートチーム)の日本での広がり、およびその有用性について述べられた。世界的な高齢化、さらにはがん患者の増加にともなって中心静脈栄養法といった栄養法を受ける患者が増加しているが、消化器官を休ませないこと、および意味のない絶食をさせないことが重要とした上で、低すぎるBMIにおける死亡率の上昇や、慢性栄養不良の中でも高齢者におけるタンパク質不足の弊害について述べ、これらの問題を解決するためには食をめぐる環境、そして多職種のもとでの口腔内環境の改善を含めた「食力」(しょくりき)を高めることが重要とした。また、近年普及が進む摂食回復支援食に関しても詳細に解説された。

 (4)臨床リレーセッション2「要介護高齢者の食を守るために考える:補綴治療を始める前に考えること」(大豆生田 清志氏〔農水省食料産業局食品製造卸売課〕、菊谷 武氏〔日歯大口腔リハビリテーション多摩クリニック〕、吉田光由氏〔広島市立リハビリテーション病院〕、服部佳功座長〔東北大大学院歯学研究科口腔機能形態学講座加齢歯科学分野)、池邉一典座長〔阪大大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座有床義歯補綴学・高齢者歯科学講座〕〕
 本セッションでは、進展する高齢化と有病者の増加を受け、補綴歯科として単に形態の回復を行うのみでは食べる機能を回復しがたい場合があることを念頭に、補綴治療に携わる前に考えるべき要介護高齢者の特性、中でも食をめぐる問題点について示された。まず大豆生田氏は「超高齢社会における「食べる力」に適した食品の供給 ―スマイルケア食の普及を目指して」―」と題して登壇し、今後2.8兆円規模の市場を形成すると試算されている介護食に関する展望と、農水省としてロゴマークやテーマソングを策定し、正しい普及に努めていくこと、また介護のステージに応じたスマイルケア食の選択チャートなどについて示した。また菊谷氏は、「運動障害性咀嚼障害を伴う高齢者の食形態の決定」と題し、これまで歯科としては器質性咀嚼障害、すなわち歯の欠損による咀嚼障害を取り上げてきたが、今後は運動障害性の咀嚼障害についても関わっていかなければならないと述べ、咀嚼力には咬合支持、口の力強さと巧みな動き、そして認知力が必要なことについて多数のデータを基に示した。また吉田氏は「歯科補綴の効果と限界 ―食塊形成や食塊移送を助けるのが義歯―」と題し、摂食・嚥下のためには噛むことだけでなく食塊形成と移送ができるための咬む力、まとめる力、そして送り込む力が揃っている必要があるとし、歯の欠損はもちろん下顎の動きや舌の機能を含めた評価を行う必要性があるとした。

 (5)臨床リレーセッション3「認知症と歯科医療,―認知症とはどんな病気か,歯科治療はどのように,また,いつ行うべきか,認知症に罹患したら歯科にかかるよう勧めるために―」(池田 学氏〔熊本大大学院生命科学研究部神経精神医学分野〕、平野浩彦氏(東京都健康長寿医療センター研究所〕、窪木拓男座長〔岡山大大学院医歯薬学総合研究科インプラント再生補綴学分野〕)
 本セッションでは、池田氏が「認知症患者にみられる食行動異常」、平野氏が「認知症の口を支える視点」と題しそれぞれ登壇。前者では、現在世界的に認知症患者が増加していることを踏まえ、その病型や発症のメカニズム、またBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia、認知症に伴う行動・心理症状)への対処などについて述べ、さらに熊本県の荒尾地区での取り組みとして、認知症患者のための受診手帳「火の国安心受診手帳」に、他の地区にはない歯科の項目を設け、歯科的なサポートを行っていることなどを示した。また後者では、前者での内容を踏まえつつ、進行性の疾患である認知症では、どの時期に何ができなくなるのかをある程度予想できることから、そのことを考慮に入れた介護計画が必要であるとした。

 (6)専門医研修単位認定セミナー「全部床義歯補綴の統一見解」(松田謙一氏〔阪大大学院歯学研究科 顎口腔機能再建学講座有床義歯補綴学・高齢者歯科学分野〕、鈴木哲也氏(医歯大大学院口腔機能再建工学分野〕、市川哲雄氏(徳島大大学院医歯薬学研究部口腔顎顔面補綴学分野〕、水口俊介座長〔医歯大大学院医歯薬学総合研究科高齢者歯科学分野〕)
 本セッションでは、松田氏が「全部床義歯臨床における印象と咬合の歴史的変遷と論点の整理」、鈴木氏が「全部床義歯の床形態に関する統一見解」、そして市川氏が「全部床義歯の咬合に関する統一見解」と題しそれぞれ登壇。松田氏は、1940年からこれまでに全13版にわたって刊行されてきた「Prosthodontic Treatment for Edentulous Patients」の中から、印象圧に関する点、下顎舌側の床縁の長さに関する点、および顎間関係の決定法などについて、時代ごとにどのような方法がどの程度の数掲載されてきたのかを分析した。また鈴木氏は、とくに下顎舌側の辺縁形態についてはデンチャースペースか否かで判断するとし、顎舌骨筋線部については延長は必須、後顎舌骨筋窩については舌の動きを優先する見地から延長の必要はないとした。また、義歯床の吸着という用語が最近用いられることが多いが、あくまでも咬合力をどうコントロールするかが重要であるとした。そして市川氏は、咬合の要件として義歯を安定させることや容認できる咬合力をもつことなどを挙げた上で、さまざまな理論を概観。現在のところ、全部床義歯の咬合に関しては当面柔軟に考える力をもつことが重要であろう、とした。

 この他、会場では時宜に即した各種セッション・シンポジウム・一般口演・ランチョンセミナーなどが活発に行われた。なお、来年度の本学会は阪大歯学部を主管校とし、石川県立音楽堂(石川県)ほかにて、2016年7月8日(金)から10日(日)にかけて開催予定とのこと。