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2015年12月13日

第7回JDA学術講演会「解決!総義歯治療のわからないところを無くそう!」開催

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 さる12月13日(日)、コクヨホール(東京都)において、第7回JDA学術講演会「解決!総義歯治療のわからないところを無くそう!」(スタディグループJDA〔Japan Denture Association〕主催、阿部二郎代表)が開催された。本講演会は、「下顎総義歯吸着理論」に関する多くの著書・論文で著名な阿部二郎氏(東京都開業、東北大大学院歯学研究科臨床教授、神歯大顎咬合回復補綴医学講座客員教授)が代表を務める「JDA」による、7回目のオープン学術講演会。2009年以来、例年12月に行われている本会であるが、今回は約300名が参集し、変わらぬ注目度を印象づけた。以下に、演者・演題とその概要を示す。

1)「下顎総義歯の吸着する確率は?」(伊井博樹氏、埼玉県開業)
 本演題では、JDA会員に対するアンケートにおいて、総義歯が吸着する確率は87%であることを示した上で、吸着を阻害する6つのリスクファクターについて考察。顎堤の吸収量、舌下のスポンジ状組織の量、顎舌骨筋線窩部の空隙量、レトロモラーパッドの形態、開口時の舌の後退、そして咬合の安定について各論を示した。

2)「頬側床縁の設定位置について」(齋藤善広氏、宮城県開業)
 本演題では、動画やスライドを用いて機能時の口腔内の動きやそれにともなう義歯の挙動などについて示した上で、頬側床縁の設定位置について詳説。精密印象時には、短めの各個トレーに対して機能的な辺縁を付与することや、口腔前庭部が狭小化した症例への対処法などについて述べた。

3)「レトロモラーパッドの捉え方」(市川正人氏、福井県開業)
 本演題では、下顎総義歯の吸着にとって重要な役割を果たし、かつ外圧によって変型するレトロモラーパッドの印象採得に焦点を絞って解説。下顎総義歯吸着理論から生まれた枠のない概形印象用トレー「FCBトレー」(YDM、モリタ)を用いた概形印象採得時の注意点について幅広く述べた。

4)「染谷のスジと後顎舌骨筋窩への延長の意義」(三宅宏之氏、宮城県開業)
 本演題ではまず、染谷成一郎氏が報告した「染谷のスジ」に関し、その定義と分類、そして自院での出現頻度を報告。出現頻度は、目視できるものが9%、引っ張ることで出現するものが21%であり、これは頬筋と上咽頭収縮筋の間に出現する無細胞性の腱組織の出現率と一致すると述べた。その上で、染谷のスジがみられた場合の印象採得法および後顎舌骨筋窩の封鎖を確実に行うための方法について述べた。

5)「舌下ヒダ部の封鎖」(本多孝史氏、埼玉県開業)
 本演題では、下顎総義歯の吸着に大きな役割を果たす、舌下ヒダ部の診査および開口時の舌の後退に対する対処について解説。開口時に舌を引いてしまう患者に対する印象採得時の工夫については、症例を基に詳説した。

6)「唇側粘膜研磨面形態」(佐藤勝史氏、山形県開業)
 本演題では、下顎総義歯の浮き上がりに関与する唇側粘膜研磨面にスポットを当てて詳説。「加圧と受圧のバランス」をテーマに、加圧因子としては口輪筋の力と下口唇の唇側への位置移動、受圧因子としては顎堤の吸収や義歯の後方水平移動に拮抗するレトロモラーパッドの吸収についてそれぞれ挙げ、それぞれについて考察した。

7)「セントリックトレーを用いた簡易咬合採得法」(相澤正之、東京都開業)
 本演題では、BPS(Biofunctional Prosthetic System、Ivoclar Vivadent)システムで用いられる簡易咬合採得用トレーである「セントリックトレー」(Ivoclar Vivadent)の活用について詳説。臨床における利点や使いこなしのためのポイント、そして模型にうまく付着させるための印象体の調整法について明快に示した。

8)「実は難しいII級症例の咬合」(山崎史晃氏、富山県開業)
 本演題では、ゴシックアーチ描記においてアペックスとタッピングの位置が前後的に遠くなるという特徴を有するSkeltalII級症例への対処について解説。さまざまな文献を示しながら、中心位を基準とすること、臼歯部人工歯は有歯顎時の位置を基準に排列すること、中心位と偏心位との運動をスムーズにすること、中心位と偏心位双方のマルチプルコンタクトを付与すること、そしてリマウントを何度も行い、咬合の確認を行うことで、SkeltalII級症例に対しても患者満足度の高い義歯を提供することができるとした。


9)「総義歯と2-IODの床縁は違う?」(亀田行雄氏、埼玉県開業)
 本演題では、インプラントオーバーデンチャーについての著書もある亀田氏が、床縁形態について解説。インプラントオーバーデンチャーでは義歯の動きは小さく、かつ舌の運動は大きくなるため、総義歯と比較してわずかな辺縁封鎖でも十分であるとした。とくに、外斜線を超える延長や、コルベン状の床縁形態の付与は必要ないと述べた。

10)「義歯調整はどうやるの?? 新・旧義歯をワンランクアップする診断と調整方法」(松下 寛氏、東京都開業)
 本演題では、演題のとおりトラブルを抱えた既存の義歯をいかに調整するかについて詳説。総義歯の不調の原因を咬合関係、人工歯排列、粘膜面の適合、床外形、そして研磨面形態に分類し、それぞれの要素の標準的な状態が何かを知ること、そして修正のポイントについて示した。

11)「総義歯のCAD/CAMと未来」(阿部氏)
 本演題では、研究が進むCAD/CAM義歯の概要と現状について、永年にわたって総義歯に携わってきた立場から解説。現状での製作法やそのメリット、デメリットなどについて示した上で、CAD/CAM義歯が今後どう広がるかはまだ不明であることや、そのメリットを見つけて最大限利用していくべきこと、そしてプロフェッショナルな歯科技工士の技が、今後CAD/CAM義歯の時代が到来しても必要であり続ける、などとした。

 なお、本講演会を主催したJDAは、2016年4月より「有床義歯学会(Japan Plate Denture Association、JPDA)」(亀田行雄会長)として改組されるとのこと。学会化の後も、年3回の定例会および今回と同様の学術講演会を予定している。