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2016年4月24日

日本介護歯科衛生士養成協会 第12回定期講演会開催

在宅患者に食支援のできる歯科衛生士の姿を模索

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 さる4月24日(日)、東京西の森歯科衛生士専門学校(東京都)において、日本介護歯科衛生士養成協会(J.C.D.H.)第12回定期講演会が行われ、同校の学生や卒業生をはじめ約100名が参集した。

 川和忠治氏(昭和大名誉教授)の開会挨拶のあと、午前の部では、「歯科衛生士が行う在宅患者への口腔ケア」と題して、十時久子氏(歯科衛生士)が登壇。15年以上訪問診療に携わってきた経験をもとに、在宅の患者が「痛みや不快なく最期まで食べられるようにサポート」するために歯科衛生士が心がけることについて語った。

 講演では、十時氏が担当した2名の重症患者の長期症例が紹介された。1人は、35歳時に交通事故で頭部外傷を受け、麻痺の残った男性で、もう1人は71歳時に脳梗塞により左半身不全となった男性。いずれも入院時は「生きているだけで幸運で、口から食べることは不可能」と言われていたが、在宅に移り、家族や主治医、歯科をはじめとした多職種の働きかけによって、10年あまりが経過した現在では、経口摂取ができるまでに回復した。

 また、在宅で口腔ケアをする際は、ただ口腔内をきれいにするのではなく、短期的・長期的な目標を立てることが必要で、その目標は、患者さんやご家族と一緒になって目指していくものだと述べた。そのためには、(1)アセスメント、(2)計画立案、(3)口腔ケア実施、(4)再評価、(5)計画見直し、のサイクルで口腔ケアを進め、計画の妥当性をつねに確認していく大切さについて語った。

 講演の合間には、参加者2人1組でのワークショップの時間も設けられた。麻痺のある高齢者の食事介助がどのようなものかを疑似体験してもらうために、右ほおをテープで固定して目隠しした相手に対し、もう1人がスプーンでとろみ食を食べさせるというものった。介助する側もされる側も、初めての体験に戸惑いつつも、意欲的に取り組んでいた。

 続く午後の部では、長谷剛志氏(能登総合病院歯科口腔外科部長)が「知っておきたい! 高齢化地域に活きる歯科衛生士としての道標とは」と題して講演。氏が暮らす能登地方の人口は約20万人で、高齢化率は4割に及ぶ。くわえて生活習慣病の住民も多く、メタボ率は県内1位。そうした状況のなか、食支援を歯科としてどのように展開しているかを、「道標」をキーワードに解説した。

 「機能に応じた食支援の道標」としては、食支援を成功させるには、その人の「ライフステージ」と、口腔機能の衰えがどの程度かを考えることが重要だと述べた。「ライフステージ」とは、表面上は問題のないように見える「食の偏好期」からフレイル、要支援、要介護に至るステージのことで、その人がいまどの段階にあるのかを理解しないで支援を行っても、十分な効果は得られないと述べた。

 また、「歯科難民を救済する道標」としては、氏が勤務する能登総合病院の取り組みを説明。加齢により歯科受診が困難になる「歯科難民」を出さないために、同院では患者の退院時に「お口の管理手帳」を作成し、退院後に必ず地域の医療機関につなげるようにしていると述べた。

 続いて、「食形態を地域につなげる道標」として、氏が中心となって作成した「食形態マップ」を解説した。食形態マップとは、能登地方において、嚥下障害者向け食の呼称が施設ごとに異なっている現状を受け、施設間での食形態の互換性を確認するために作られた整合表で、現在は44施設が加盟している。

 そのほか、地域住民啓発のためのラジオ出演、喀痰吸引チューブ「からめと~る」など、氏のユニークな取り組みが多数紹介された。

 氏は、こうした事例はあくまで能登地方のものだが、皆さんの地域に利用できることを学んで帰ってほしいと述べ、歯科衛生士として在宅患者を診る場合、口腔環境を整えて終わりではなく、食支援を目標にした「目的をもった口腔ケア」をしてほしいと訴えていた。