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2016年6月9日

日本歯科保存学会2016年度春季学術大会(第144回)開催

「超高齢社会を見据えた保存治療のあり方」をテーマに

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 さる6月9日(木)、10日(金)の2日間、栃木県総合文化センター(栃木県)において、日本歯科保存学会春季学術大会(小木曽文内大会長、興地隆史理事長)が、「超高齢社会を見据えた保存治療のあり方」をテーマに開催された。

 初日のシンポジウムでは、「高齢者への歯科治療―臨床医の立場から―」と題して、以下の演者・演題で講演が行われた。
講演1:保存修復学の立場としての対応(秋本尚武氏、神奈川県開業)
講演2:高齢者の歯内療法の勘所(木ノ本喜史氏、大阪府開業)
講演3:超高齢社会への対応―歯周治療を行う立場から―(藤川謙次氏、東京都開業)

 演者らは開業医という立場であるため、「診療所に通院できる高齢者」という視点からそれぞれの専門性における高齢者との関わりを考察。秋本氏は、楔状欠損や根面う蝕、tooth wearは高齢者に限って生じるものではないが、それでも高齢者の硬組織疾患として高齢患者に啓発すべきものであるとし、これらの第一選択肢としてCR修復を挙げた。木ノ本氏は、高齢者の歯内療法には根面う蝕による不顕性の露髄や、歯髄組織の線維化によって歯髄診断が困難になるとした。藤川氏は、高齢者の歯周治療では患者の握力低下によるブラッシングの不良や口腔周囲の筋力の低下が問題になり、また高血圧や糖尿病に対する治療薬投与にも注視すべきとした。そして3演者ともに、これらの問題の対応を豊富な臨床例とともに語った。

 その後の質疑応答では、高齢者に関連する修復治療、歯内療法、歯周治療の今後の方向性が議論された。秋本氏は、修復治療に専門性をもつ歯科医師が通常行う接着性修復が一般的には行われていないと感じており、これが広く普及することが先決であるとして、その役割を同学会に期待した。木ノ本氏は、象牙質の強化、歯髄の再生等の研究の進展に期待を寄せた。藤川氏は、エムドゲインや再生治療も重要であるが、とくに高齢者においてはSRPの徹底やプラークコントロールなどの患者教育がより重要であるとの見解を示した。さらに、3者ともに高齢者の定期的なメインテナンス継続の難しさを大きな問題として挙げた。

 注目を集めたのは、八重垣 健氏(日歯大)を演者に「利益相反について」と題して行われた教育講演。八重垣氏はまず、科学研究の場でCOI(conflict of interest)が利益相反と訳されることの言語的問題を提起し、本来的には科学研究の場では「利益と科学的興味の相反」と訳するのが相応しいとの見解を示した。また、COIがあること自体は優秀な研究者であることの証で歓迎すべきものであるが、日本においては「COIが悪」との誤解が多いとした。そして、悪なのは「COI行為」すなわち利益を受ける個人や団体に依怙贔屓することであり、さらに最悪なのは「COIやCOI行為がないといって実はあること、あるいは後から見つかること」だと述べた。さらに研究者としての役職が上がれば上がるほどCOIの把握、管理が難しくなることを述べ、その正確な理解なくして「COIなし」と明示することの危うさに警鐘を鳴らした。

 そのほか、初日には認定研修会「歯質との反応機序から接着システムを考える」(井上 哲氏、北大)、2日目には先端講演「歯科用CTの活用」(新井嘉則氏、日大)、特別講演「高齢者の歯科治療における心と身体の留意点」(上松瀬勝男氏、日大名誉教授)や福田富一氏(栃木県知事)を演者とした招待講演、ランチョンセミナー、口演研究・ポスター発表などの多様なプログラムが組まれ、盛会となった。