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2016年7月8日

日本補綴歯科学会第125回学術大会開催

金沢駅前を舞台に、2,500名が参集する盛会に

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 さる7月8日(金)から10日(日)の3日間、石川県立音楽堂およびANAクラウンプラザホテル(いずれも石川県)において、日本補綴歯科学会第125回学術大会(前田芳信大会長、松村英雄理事長)が約2,500名の参加のもと開催された。今回のメインテーマは、「補綴歯科がめざすもの、求められるもの」。以下に、主要な演題の中から6題の概要を示す。

(1)臨床スキルアップセミナー「スタートアップ・クラウンブリッジ ~補綴歯科治療における材料特性の活用~」(五味治徳氏〔日歯大生命歯学部歯科補綴学第2講座〕、武部 純氏〔愛院大歯学部有床義歯学講座〕、山森徹雄座長〔奥羽大歯学部歯科補綴学講座〕)
 本セミナーでは、五味氏が「材料特性を考慮した補綴装置選択のポイント」と題し、また津賀氏が「材料特性を考慮した歯冠補綴装置装着におけるポイントを整理しよう」と題しそれぞれ講演。前者では、クラウン・ブリッジ用材料の進化とその種類について概観。その上で最近のトピックとして、CAD/CAM冠使用のポイントや、2014年から厚生労働省が指定している「金属代替材料としてグラスファイバーで補強された高強度のコンポジットレジンを用いた三ユニットブリッジ治療」について紹介。さらに、近年普及が進むジルコニアの応用についても示した上で、現在ではさまざまな材料が選択できるがすべての症例に対応するものはなく、各種材料の特性を生かした材料選択が必要とした。また後者では、製作された補綴装置をどう装着するかに焦点をあて、コンタクトゲージや咬合紙を用いたクリアランスの確認なども含めたステップを詳説した。また、CAD/CAMオールセラミッククラウンの適合を高めるための支台歯形態や、その装着手順に関しても示した。

(2)教育講演1「咬合を再考する」(Dr. Martin D. Gross〔元テルアビブ大〕、古谷野 潔座長〔九大大学院歯学研究院インプラント・義歯補綴学分野〕)
 本講演では、座長兼演者の古谷野氏が「咬合を再考する」と題し、またDr. Grossが「Marginal bone loss and mortality in light of current research of occlusal overload, peri-implantitis and their effects on alterd paradigms for implant supported prosthetic restration」と題しそれぞれ登壇。前者では、中心位や下顎位、そしてオクルーザルガイダンスなどに関し、その定義の変遷や治療結果に対する影響について文献レビューに基づいて検証。その上で、この分野においては研究の数自体が乏しいこと、またエンドポイントを設定した研究がないことを指摘し、咬合治療はあくまでも患者のニーズにあわせて行うべきで、術者の信じる理論に合わせるために行うべきものではないとした。また後者では、インプラント埋入後に生じるインプラントと骨の平衡状態とその喪失、早期のマージナルボーンロスの理由や骨吸収につながる咬合のオーバーロード、そして生体的リスクのマネジメントなどについて述べた。全体を通じ、インプラントの長期安定をめざすための力のコントロールに焦点をあてた内容としており、締めくくりには「現在のパラダイムを用い、多くの知識(background of knowledge)があれば適した判断ができる」とした。

(3)国際シンポジウム「補綴歯科がめざすもの,求められるもの」(Dr. George A. Zarb〔トロント大〕、Dr. Michael I. MacEntee〔ブリティッシュコロンビア大〕、前田芳信座長〔阪大大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座有床義歯補綴学・高齢者歯科学分野〕)
 本シンポジウムでは、Dr. Zarbが「The Osseointegration Interface: Its Impact on Prosthodontic Management」と題し、またDr. MacEnteeが「Implants for Old Age」と題しそれぞれ登壇。前者では、「インプラントの登場により、歯科は新しい界面を手に入れた」とした上で、インプラントの進化を概観。当初はオトガイ間の埋入に限られていたインプラントが材料・術式の進化を受けて適応症を拡大していった過程について述べた。その上で、インプラントの表面性状の進化、術者によるオンレーグラフトの成功率の違い、広範囲な骨再生に関する長期的なエビデンスの不足、軟組織とインプラント体との結合に関する最近の知見、インプラント周囲炎の問題などについて解説。そして高齢者にインプラントを適用することへの疑問を投げかけた上で、「(生体の)変化は避けられない。それをうまく利用することである」とした。また後者では標題に沿い、インプラントオーバーデンチャーと総義歯の臨床的アウトカムは変わらないとする研究や、確実な歯内療法が行われた歯のほうがインプラント補綴よりも予後が良好になる可能性があることを示唆した研究の紹介、また即時荷重や「インプラント VS 可撤性義歯」に関する研究にエビデンスレベルが低いものが多いなどといった点について述べた上で、遊離端欠損のパーシャルデンチャーの遠心端にインプラントを埋入することの有用性や磁性アタッチメントの清掃性の良さ、そして下顎インプラントオーバーデンチャーのためのインプラント体の本数に関し、1本でも2本でも5年後の満足度に差はなかったという研究を示し、「インプラントを使うときは、できるだけシンプルに」という氏の考え方を示した。

(4)臨床リレーセッション1「有床義歯臨床の疑問に応える」(松下恭之氏〔九大病院再生歯科・インプラントセンター〕、永田省藏氏〔熊本県開業〕、若林則幸氏〔医歯大大学院部分床義歯補綴学分野〕、上田貴之氏〔東歯大老年歯科補綴学講座〕、大久保力廣座長〔鶴見大歯学部有床義歯補綴学講座〕〕
 本セッションでは、とくにパーシャルデンチャーの設計・製作に着目し、支台歯の選択から連結・支台装置の選択、そして装着後の評価が一連の流れとして示された。まず松下氏は「支台歯の選択と予後に関する補綴的戦略は?」と題し、ブリッジの支台歯よりも引き抜き・揺さぶりのリスクが高いパーシャルデンチャーの支台歯に求められる歯冠-歯根比や骨植、歯種による負担能力の差などについて述べた。また、後半ではインプラントを支持として用いることの有用性について述べた。また永田氏は、「可撤性支台装置は何が良いのか?」と題し、各種アタッチメントの特徴について紹介。その上で、電鋳キャップを用いたコーヌステレスコープの高い適合性と長期安定性について述べた。また、さまざまな状態の支台歯を一体として取り込むことのできる二次固定の有用性についても述べ、「開業医の立場としては10年以内での再製はしたくない。結果、二次固定を選ぶ」とした。また若林氏は、「連結装置は何を基準に選択するのか?」と題し、とくに大連結子と小連結子の設計と役立てかたについて概説。把持効果を得るための大連結子と小連結子の活用、義歯の動きを抑えるための間接支台装置の設計などについて述べた。また上田氏は、「有床義歯装着後の評価とその対応」と題し、患者の自己解釈モデルを過信することに対して注意を促した上で、咬合紙を用いた咬合の評価、各種の咀嚼機能評価法、患者の機能低下にともなう咀嚼機能の低下や多種の薬剤を投与されている(polypharmacy)患者に生じるオーラルディスキネジアに対する心構えなどについて述べた。

(5)臨床リレーセッション2「インターディシプリナリーデンティストリー -補綴歯科専門医は他分野から何を求められているか― 口腔外科、矯正の立場から」(船登彰芳氏〔石川県開業〕、前田早智子氏(矯正認定医、大阪府〕、細川隆司氏〔九歯大口腔再建リハビリテーション学分野〕、近藤尚知座長〔岩手医大歯学部補綴・インプラント学講座〕)
 本セッションでは、船登氏が「補綴主導型インプラント治療におけるGBRの必要性とその検証」、前田氏が「矯正医が補綴医に期待すること」、そして細川氏が「補綴前処置としての歯の移動と骨造成 ―補綴歯科専門医として何を考え、何をするべきか―と題しそれぞれ登壇。まず船登氏は、インプラントの埋入自体はある程度の骨量があれば難しいものではないが、補綴主導型の治療においては骨増生が欠かせないとし、中でもGBRの術式について氏ならではの経験に基づいた各種方法について示した。また前田氏は、「補綴医はインターディシプリナリーのためのコンダクター」とした上で、「しかし、(矯正医が)招集されなければ意味がない」と述べ、複数のオプションを組み合わせた症例を4例供覧。その矯正と補綴が組み合わされた症例群から、患者の真の希望を捉えることの重要性やカウンセリング的コミュニケーション手法の重要性、そして矯正医とのコミュニケーションを図った上でのインターディシプリナリートリートメントのメリットなどについて述べた。また細川氏は、これまでの2題を受け、GBRとショートインプラントの比較、骨量が少ない場合の傾斜埋入の適応、また矯正することが理想的だがそれを受け入れない患者も多いことなどについて述べた上で、補綴専門医としては患者を中心に据え、術者ひとりで行えることの限界を患者に伝える勇気をもつこと、各領域の担当医とコミュニケーションを図ること、そして補綴専門医もできるだけ外科処置や矯正治療の知識をもっておくことが重要である、とした。

(6)臨床リレーセッション3「インターディシプリナリーデンティストリー ―補綴歯科専門医は他分野から何を求められているか―歯周、歯内療法の立場から」(木ノ本喜史氏〔大阪府開業〕、鈴木真名氏〔東京都開業〕、窪木拓男氏〔岡山大大学院医歯薬学総合研究科インプラント再生補綴学分野〕、藤澤政紀座長〔明海大機能保存回復学講座歯科補綴学分野〕)
 本セッションでは、木ノ本氏が「根管充填後のコロナルリーケージ ~歯内療法と歯冠修復との密接な関係」、鈴木氏が「審美治療の為のインターディシプリナリーアプローチ」、そして窪木氏が「高度な軟組織マネージメントやエンド治療とのコラボレーション」と題しそれぞれ登壇。木之本氏は、1987年頃から研究が進められたコロナルリーケージにつき、今、40歳以下の歯科医師のほうがこの点に対する教育は受けている可能性が高いとした上で、コロナルリーケージが生じる条件やその対策について伝えた。また、歯内療法期間中の唾液の根管内への影響についても述べ、コア形成後、印象後には患者にうがいをさせないといった注意点も示した。また鈴木氏は、歯肉の審美性を得るための要素として補綴、矯正、外科の3つのファクターを示し、それぞれを単体で用いることはないと述べた上で、結合組織移植、矯正的挺出、歯肉切除術それぞれの術式や注意点について症例とともに詳説した。そして窪木氏は、インプラントを用いずにブリッジで治療した前歯部修復の20年予後を紹介。その上で、「インプラントならばここまで保てなかったかもしれない」という仮定のもと、インプラント以外の治療オプションを忘れないこと、歯根膜を最大限に残すこと、GBRの予知性を過信せずCTGを活用すること、などと述べた。

 この他、会場では時宜に即した各種セッション・シンポジウム・一般口演・ランチョンセミナーなどが活発に行われた。なお、来年度の本学会は鶴見大歯学部を主管校とし、パシフィコ横浜(神奈川県)において、2017年6月30日(金)から7月2日(日)にかけて開催予定とのこと。