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2016年9月17日

日本歯科衛生学会 第11回学術大会開催

多職種連携のための歯科衛生研究の推進が求められる

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 さる9月17日(土)から19日(月)の3日間、広島国際会議場(広島県)において、日本歯科衛生学会 第11回学術大会(浮田瑞穂大会長、吉田直美会長)が「口からはじまる健康長寿―多職種連携で支えよう―」をメインテーマに開催され、約2,000名が参集した。5月のバラク・オバマ米国大統領訪問や25年ぶりの広島東洋カープのリーグ優勝に沸く広島の地で開かれた本大会は、特別講演、教育講演、シンポジウム、口演発表、ポスター発表、ワークショップ、研究討論会、県民フォーラムなど多彩なプログラムが組まれ、大会テーマにある「多職種連携」のために歯科衛生士が何をすべきかが多方面から示される会となった。

 まず、2日目の教育講演では、西田 亙氏(にしだわたる糖尿病内科院長)が「歯科衛生士だからこそできる糖尿病予防~闇を除いて未来を照らすTBI/SRP」との演題で講演した。氏はまず、歯科衛生士は科学に基づいた力と生涯に寄り添う力の両方を持ち発揮できる素晴らしい職業であると熱弁をふるった。次に、歯周病と糖尿病の共通点について解説。自身の糖尿病患者が歯周病治療を行って血糖値が下がった症例を示し、歯周治療の重要性を裏付けた。また、かつて西田氏自身が歯周治療により重篤な歯周病を改善できたことで、体重減少ほか全身の健康を取り戻した経験を紹介すると、会場はどよめきに包まれた。最後に、近年増加している小児の糖代謝異常や、妊婦の8人に1人が罹患するといわれている妊娠糖尿病を防ぐには、小児から高齢者まで継続的に関わることのできる歯科の力が必要だと強く訴えた。

 午後の栗原英見氏(広大大学院教授)による特別講演「口からはじまる健康長寿―医科歯科連携に必要な歯周炎の新しい捉え方―」では、30歳代後半から50歳代への歯周治療の重要性について述べられた。その理由として氏は、「非アルコール性脂肪性肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis:NASH)」と歯周病菌との関連について解説。歯周治療によってNASHが治癒する可能性を示唆した。また、P.g.菌感染による慢性歯周炎は日常的菌血症を引き起こし全身のP.g.菌感染症につながりうるため、歯周治療によって歯周炎は治っても全身の感染症が完全には治らない事態も想定されることから、将来的に歯科で内科受診を促すようになるかもしれないとの考えを述べた。そうしたことから氏は、結局は歯周病予防が肝心であるとし、冒頭で述べた年代より以前の10歳代後半から30歳前半、すなわち大学生や新入社員の歯科受診促進が必要であり、本大会テーマの「多職種連携」は、医科や介護業界だけでなく、教育関係者や企業関係者との連携も含まれるのではないかと結んだ。

 最終日は、シンポジウム「地域包括ケアシステムにおける職種間の連携」が開かれた。まず、先駆的に外来受診困難な患者への歯科診療と専門的口腔ケアを行ってきた公立みつぎ総合病院の占部秀徳氏(同病院診療部長)と倉本睦子氏(同病院歯科衛生士長)が、それぞれの立場から御調町(現・尾道市)での地域包括ケアシステムにおける歯科の取り組みについて講演した。続いて、安部美保氏(国東市民病院看護師長、訪問看護ステーションくにさき管理者)が、大分県内の訪問看護ステーション管理者81名(回答率59.3%)を対象とした口腔ケアへの認識や歯科衛生士との連携状況などに関するアンケート調査結果を紹介。看護師は「感染予防のために口腔ケアが必要」と考える者が大半を占めているにも関わらず、実際は口腔ケアを後回しする傾向にあること。また、歯科衛生士との連携の必要を感じているものの現行制度の中で実践できていないことがわかったとした。さらに、連携のための具体的な方策として、「訪問看護ステーションの従事者の中に歯科衛生士が認められれば容易に在宅でのサービス提供が可能になるのではないか」と述べた。続く竹内嘉伸氏(南砺市民病院地域医療連絡科主査)は、医療ソーシャルワーカーとして地域の多職種連携に携わる立場から、近年、要介護者の家族の意識が「介護負担の軽減」から「介護負担をなくす」に変化しており、要介護者の健康状態が元通りに回復しないと在宅で受け入れられないと考える家族が増えてきていると述べた。こうした状況の中、在宅生活をどうするかという本人の自己決定に専門職が関わりマネジメントすれば、生きづらさを抱える人々の生活を支えることができる。それには地域のつながりを再構築していくことが求められると結んだ。討論では、連携のアドバイスとして、どのシンポジストからも「顔の見える関係」を築くことが重要と述べられた。それには歯科衛生士が臆せず積極的に地域に出ていき、多職種から声を掛けられたらその場ですぐ対応する姿勢が必要であるとされた。最後は、座長の吉田直美氏により、多職種に歯科衛生士の実力をアピールするために歯科衛生研究が欠かせないと締めくくられた。

 なお、次回の第12回学術大会は、きたる2017年9月16日(土)から18日(月)の3日間、品川区立総合区民会館(東京都)において、富田基子大会長のもと開催予定。