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2017年11月23日

「第2回有床義歯学会学術大会」開催

「The Professional of JPDA ―新刊書籍の著者講演を聞こう!―」をテーマに

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 さる11月23日(木)、東京歯科大学血脇記念ホール(東京都)において、第2回有床義歯学会学術大会・設立総会(有床義歯学会〔Japan Plate Denture Association、以下JPDA〕主催、亀田行雄会長)が開催された。本大会は、2016年4月にスタディグループ「JDA〔Japan Denture Association〕」から改組の上発足したJPDAにとって2回目となる学術大会。会場には日本国内はもちろん、阿部二郎氏(歯科医師・東京都開業、有床義歯学会名誉会長)から下顎総義歯吸着理論を学んだ中国、オーストラリア、カナダなどからの参加者も含めた約300名が参集。引き続き、有床義歯の名称を冠した新学会への注目度を感じさせた。以下に、演者・演題とその概要を示す。

1)「咬合不安定症例への対処法」(及川直人氏、歯科技工士・denture laboratory re:forte)
 本演題では、咬合不安定症例への対処法として臼歯部フラットテーブルを用いた治療用義歯を用いる場合と、臼歯部に解剖学的人工歯を用いた治療用義歯を用いる場合の選択基準やメリット・デメリットについて概説。明らかな顎位の変化がある症例やグラインドタイプの咬合をもつ患者には前者を、チョッパータイプや咬合力の弱い患者には後者を利用するといった臨床での注意点について簡明にまとめた。そして最後に、「どちらかに優劣があるわけではない。それぞれの症例にあった方法を選択してほしい」とした。

2)「総義歯アンダーカット処理法」(永田一樹氏、歯科医師・永田歯科医院)
 本演題では、総義歯で生じてしまう顎堤のアンダーカットに対する処置を、(1)削除する、(2)避ける、(3)利用する、の3種に大別した上で、それぞれの対応法を解説。アンダーカットを判定するための適合試験材の使用法や、レトロモラーパッド内側のアンダーカットへの対応法、さらに削除が過剰になってしまった場合の対処法として動的機能リライニング材の活用法などについて述べた。

3)「IARPD」(船江剛史氏、歯科医師・千葉県開業)
 本演題では、IARPD(Implant Assisted Removable Partial Denture)の定義や用語の変遷、およびIARPDを応用することのメリットなどについて解説。IARPDの利点としては咬合支持の強化や義歯の動きの抑制などを、欠点としては外科的侵襲やコスト、技工操作の複雑化などを列挙した。また、固定性のボーンアンカードブリッジと比較した場合には、清掃性や軟組織部の形態回復の容易さ、インプラント埋入位置の自由度の高さなどが利点になるとした。

4)「在宅診療における吸着義歯製作法」(湯田亜希子氏、歯科医師・北海道開業)
 本演題では、下顎総義歯吸着理論を学んだ上で訪問診療で製作した総義歯の使用率が90.6%にのぼったことについて述べた上で、訪問というさまざまな条件がある現場で義歯製作を行う上での注意点について解説。「訪問は義歯製作4回で!」をキーワードに、初診から総義歯完成までのステップについて示した。また、意思疎通の困難な高齢者の印象採得を効率よく行うための「吸着機能印象法(にらめっこ印象法)」についても紹介された。

5)「在宅診療における吸着義歯製作の技工」(小林貞則氏、歯科技工士・ウィルデンタルラボ)
 本演題では、上述の湯田氏とともに臨床に取り組む歯科技工士の小林氏が登壇。これまでの膨大なデータから、訪問診療の対象となる患者は自力で来院する患者にくらべて咬合高径が低い傾向があることや、無歯顎で総義歯を使用している場合が多いことなどについて示した。また訪問診療が必要になった理由に目を向け、脳血管障害や認知症の患者と、そういった疾患のない歩行困難者とでは製作の難易度が変化するとした。また、実際の症例も提示され、機能が損なわれた状態をいかに再現し、機能する総義歯を製作するかについて示した。

6)「ダイナミック印象法」(松丸悠一氏、歯科医師・フリーランス)
 日本大学松戸歯学部兼任講師であり、かつ北海道や東京都内の複数の歯科医院でフリーランスとして総義歯治療に取り組む松丸氏。かねてから臨床はもとより論文ベースでの総義歯の考察に定評のある氏であるが、今回はダイナミック印象法について解説。ダイナミック印象法を行う前の咬合関係や義歯外形の確認、またティッシュコンディショナーの確実な練和や混液比のコントロールなどについて症例とともに示した。

7)「下顎総義歯舌側印象形態」(山崎史晃氏、歯科医師・富山県開業)
 本演題では、コンパウンド印象にはさまざまなエビデンスが残されてきたことに対し、シリコーン印象にはまだエビデンスがないことについて指摘した上で、下顎総義歯の吸着にとって大きな役割を果たす下顎舌側の印象形態について舌下ヒダ部と後顎舌骨筋窩部に分けて解説。前者では、吸着のための厚みと深さを得るために嚥下運動とともに採得する必要があるとし、また後者では、舌の運動を妨げない形態を付与するために口唇を舐める運動が適しているとした。

8)「日本人デンチュリストの提案 ―Love letter from Canada―」(竹内真人氏、歯科技工士/デンチュリスト・Parksville Denture Clinic Inc.〔カナダ〕)
 本演題では、日本で歯科技工士として勤務した後、カナダでデンチュリスト資格を取得して2016年から活躍している竹内氏が登壇。日本国内での訪問診療への立ち会いなどを経て、「自分自身で義歯を作りたい」という思いを募らせて2016年に渡加した前後の波乱万丈のエピソードに加え、日本の歯科界/歯科技工界への提案を提示。具体的には、(1)歯科医院に常駐して義歯にかかわる技工・アシスト全般を専門的に行う「義歯専門歯科技工士」の確立、(2)CAD/CAMをはじめ、義歯にかかわる大型・高額機器や人員を豊富に配置した「義歯専門歯科技工所」の確立、そして(3)歯科技工士不足への対策としてカナダで採用されている「歯科技工士助手」制度の導入(高校卒業以上の人を、歯科技工士有資格者1人あたり3名まで雇用できるというシステム。助手は地元の歯科技工士会に登録される)、の3点であった。今後ますます必要とされる日本国内での歯科医師・歯科技工士のコミュニケーションや、歯科技工士の労働環境について独自の視点から切り込む印象深い講演となっていた。

9)「This is Suction Denture!」(佐藤勝史氏、歯科医師・山形県開業)
 本演題以降は、JPDA会員の中でも本年に入って各種歯科出版社から著書を上梓した3名の講演が続いた。そのトップバッターとなった佐藤氏は、このたび発行の演題と同名の書籍「This is Suction Denture!」(デンタルダイヤモンド社、本年12月発売予定)を基に、その内容を紹介。とくに、舌の後退を意識したアドバンスな印象採得法に焦点を絞って解説していた。

10)「遊離端欠損の戦略的治療法」(亀田氏、歯科医師・埼玉県開業)
 本年2月に書籍「遊離端欠損の戦略的治療法 パーシャルデンチャー・インプラント・IARPD」(医歯薬出版)をから上梓した亀田氏(諸隈正和氏との共著)。講演ではその中でもすれ違い咬合に焦点を絞り、インプラントを用いた欠損形態の改善の考えかたとその実際について、多数の症例を基に解説した。

11)「総義歯における下顎位の変化と辺縁封鎖の破壊」(阿部氏)
 本年11月に書籍「下顎総義歯吸着テクニック ザ・プロフェッショナル-Class1/2/3の臨床と技工、そしてエステティック-」を上梓した阿部氏(岩城謙二氏、須藤哲也氏、小久保京子氏との共著)。講演ではこの中から、演題のとおり総義歯における下顎位の変化と辺縁封鎖の破壊について、前歯部へのクリアランスの与え方に焦点を絞って解説した。

 2回目の学術大会も成功裏に終了させた有床義歯学会。今後とも、日本国内はもちろん世界各国への情報発信が期待される。