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2019年3月31日

ライオンデンタルフェスティバル2019開催

「予防歯科の未来について考える一日」をテーマに

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 さる3月31日(日)、ベルサール新宿グランド(東京都)において、ライオンデンタルフェスティバル2019(ライオン株式会社主催)が「予防歯科の未来について考える一日」をテーマに開催された。来場者数634名のうち500名あまりが歯科衛生士であり、予防歯科の担い手たちの熱意を感じる集まりであった。以下に、主要な演者・演題とその概要を示す。

1)「根面う蝕へのフッ化物応用の基礎と臨床」(荒川浩久氏、神歯大特任教授)

 近年、歯を残せる高齢者の増加にともない、根面う蝕の罹患者も増加している。歯の根のう蝕から破折、そして歯の喪失につながるこの疾患について、フッ化物応用の効果を荒川氏があらためて整理した。日本歯科保存学会の「う蝕治療ガイドライン(第2版)」にも、初期根面う蝕(表面の欠損の深さが0.5mm未満)へのフッ化物配合歯磨剤の有効性が明記されていることをはじめ、歯科医療者が根面う蝕対策にフッ化物を用いるべき論拠が豊富に提示された。

2)「長期メインテナンスから歯科衛生士の可能性を再考してみよう…~歯を残すために知ること、やるべきこと~」(小林明子氏、歯科衛生士・歯科技工士、小林歯科医院)

 年間4,000人の患者を診ている小林氏が、自身の根面う蝕患者の困難症例をもとに、歯科衛生士としての学び方を語った。困難な症例に出合ったときは、「どう再構築するか」だけでなく、「どうしてこうなってしまったのか」を、その患者さんの人となりをひも解きながら考えることが大切で、それができるのは、患者と密接にかかわれる歯科衛生士だけだという。そして、その患者とのつながりを次の世代にバトンタッチするために、しっかりと記録を残すことも大切だと締めくくった。

3)「歯周病のバイオロジー:なぜ歯周病は起こる?」(天野敦雄氏、阪大大学院教授)

 天野氏は、これからの時代の「予防」を理解するキーワードとして、「マイクロバイオーム」と、「マイクロバイアル・シフト」の2つを提示した。氏によれば、マイクロバイオーム(Microbiome:口腔細菌叢)とは、患者個人がそれぞれもつ口腔細菌の全体像のことで、このバランスが崩れることをマイクロバイアル・シフト(Microbial shift:口腔細菌叢の変化)という。マイクロバイオーム内に病原性を有する菌が少ない場合、バイオフィルムの病原性も低く、多少の口腔衛生不良では歯周病は発症しない。逆に、マイクロバイオーム内に病原性を有する菌(P.g.菌など)が多い場合、軽度の口腔衛生不良で歯周病のトリガーが入りやすい。したがって、病的なマイクロバイオームへのマイクロバイアル・シフトを起こさせない、または変化したマイクロバイオームを変化前の状態に戻すことが、新たな観点の「予防」であるとのことだ。

4)「菌コントロールとホストケアに注目した歯周治療~キラキラ輝いたDHになって欲しい~」(三上 格氏、北海道開業)

 三上氏は、歯周病対策として、歯の表面のプラーク中の菌だけでなく、舌や口蓋を含めた口腔粘膜全体の「菌コントロール」の重要性を提言。また、宿主の歯肉の防御機構を強化する「ホストケア」についても留意するよう述べた。菌コントロールには、IPMP(イソプロピルメチルフェノール)やCPC(塩化セチルピリジニウム)、ホストケアには、歯肉組織を修復する効果のあるVE(ビタミンE:酢酸トコフェロール)の配合された歯磨剤を推奨した。

5)「歯周基本治療の力・歯周病ケアディスカッション」(小方頼昌氏、日大松戸歯学部教授)

 最後の演者である小方氏は、自身の長期症例をもとに、細菌検査をからめた患者アプローチのしかたを解説。いまだ日数とコスト(検査キットのメーカーにもよるが1回1万円以上)のかかる歯周病細菌検査だが、患者個人の口腔細菌叢を知ることは、予防戦略上も患者のモチベーションアップにも有用であると述べた。


 講演後は、小方氏の司会のもとディスカッションが行われ、会場から寄せられた質問にそれぞれの演者が回答した。

 総合すると、荒川氏によるフッ化物応用、天野氏による細菌学、三上氏による宿主要因の強化、そして小林氏、小方氏による臨床面からのアプローチというように、予防歯科に求められる要因が網羅された内容であった。濱 逸夫氏(ライオン株式会社代表取締役会長)が開会の辞で述べたように、「日本を予防歯科先進国へ」けん引するための視点が詰まった講演会だったといえる。