2022年10月23日掲載

岩崎正一郎氏が歯根破折をテーマに講演

大阪大学歯学部同窓会、第556回臨床談話会を開催

大阪大学歯学部同窓会、第556回臨床談話会を開催
 さる10月23日(日)、大阪大学歯学部同窓会(谷口 学会長)による第556回臨床談話会が、大阪大学歯学部記念会館(大阪府)およびWeb配信にて開催された。今回は講師に岩崎正一郎氏(奈良県開業)を迎え、「歯根破折歯への対応あれこれ―保存治療への取り組みから見えてきたこと―」をテーマに講演が行われた。

 歯科領域において、歯周病・う蝕に続き歯を失う原因となっている歯の破折。特に歯根破折はこれまで病変なく維持できていた歯に突如起こるため、患者にとっても歯科医療者にとっても悩みの種である。今回の講演は、そうした歯根破折を起こした歯を救うために氏がどのような対応をしているかを、過去20年近い症例をもとに解説した。
 
 歯根破折歯に対し、氏は抜歯以外に、1)口腔内で破折歯を接着する、2)抜去した歯を口腔外で接着し再植する、という手法を取っている。1)においては、接着性レジンセメントである「スーパーボンド®」で破折した歯根を接着し、クラウンで覆う(その際、必要に応じてタッフルマイヤーで破折歯を固定する)。2)においては、抜去した歯根破折歯を、口腔外で起炎物質を除去後、スーパーボンド®で接着して復元したのち再植する。

 再植の際は、歯根膜がどの程度、歯根に残っているかがその後の定着に影響するが、氏は試行錯誤の末、歯根膜の再生を促す歯周組織再生剤「リグロス®」を再植前に塗布している。リグロス®のすぐれた血管新生作用を期待してのものだが、リグロス®を使用する際は、保険外治療であること、接着再植治療への使用は適応外であること、再植に用いた場合の予後は不安定(5年ほど)であることを患者に必ず伝えるようにしているという。

 とはいえ、氏は「接着再植を治療の第一選択肢に」と主張しているわけではない。歯根破折が起きた歯は抜去し、その後インプラントなどの補綴物を入れるのがあくまでセオリーである。しかし、抜歯以外の選択肢を提示する――つまり治療の選択肢を増やすことで、患者が納得して治療を選べることにつながるし、また再植は長年もつものではないとしても、それが機能する数年のあいだに、患者に意思決定の時間的・精神的猶予を与えることになるとのことだ。

 また、治療をした歯には、プラークコントロールの徹底を前提とした歯周組織の継続的管理、再度の歯根破折を予防するパワーコントロール、そして何より、経過観察のために患者に来院し続けてもらうことが肝要だと述べた。

 講演後には質疑応答の時間が設けられ、「抜去した歯に付着している不良肉芽と歯根膜をどう見分けるか」「再植した後の固定期間はどれくらいか」「スーパーボンド®で破折片を接着するとき、どれくらいの時間で行うべきか」など、氏の治療ノウハウを掘り下げる質問が多数寄せられた。

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