2022年10月30日掲載

「1本の歯を守るためのチーム医療~接着から咬合まで~」をテーマに

日本臨床歯科学会東京支部、2022年度 第2回Web例会開催

日本臨床歯科学会東京支部、2022年度 第2回Web例会開催
 さる10月30日(日)、日本臨床歯科学会東京支部 2022年度 第2回Web例会(日本臨床歯科学会東京支部主催、北原信也大会チェアマン、大河雅之支部長)が開催された。同学会・同支部で開催する年3回開催の例会においては毎回テーマを定めているが、今回は「1本の歯を守るためのチーム医療~接着から咬合まで~」をテーマとし、歯内療法から接着技術、そして支台築造から咬合まで、合計7名の演者が幅広いテーマについて論じた。以下に演者・演題および概要を示す(講演順)。

1)教育講演1「根管拡大からコロナルレストレーションまで MI コンセプトに基づく根管治療」(橋爪英城氏、東京都開業)
 本演題ではまず、演者が歯科医師になって以来20年あまりの根管治療関連の技術の進歩について概観。より多くの歯が残せるようになってきたことについて示したうえで、何が根管治療を難しくするのかについて解説。根管内は直視できないこと、また細菌は時間の経過とともにすぐ増殖してくるため、最短でも2回法で処置することが必要であるとした。また、MIに基づいた根管治療として、ニッケルチタンファイルの使用、最小限の歯質の切削、また水酸化カルシウム製剤の貼薬やラバーダムの使用、そしてバイオシーシーラー(Angelus Japan,ヨシダ)による充填など、数多くのテクニックを示したうえで、自験例2例を提示して締めくくった。

2)教育講演2「接着歯学とマテリアルから考える審美修復治療」(北原氏、東京都開業)
 本演題では、演者が日本臨床歯科学会と出会ったきっかけや、その後、臨床だけではなく研究にも努めるべく昭和大学歯学部歯科保存学講座美容歯科学部門に籍を置くようになったエピソード、そしてインターディシプリナリーアプローチのために集まった「Team Nobu」のメンバー紹介などを行ったうえで各論へと導入。かつて取り組んできたコンポジットレジン修復の経過についてや接着のインターフェース(ボンディング材対コンポジットレジン、ボンディング材対歯質)について、またOne-bottle silane coupling agent containing 4-META(セラミックスボンドIK、ペントロンジャパン)の開発に関わった経緯、また歯内療法や支台築造と接着の関係、そして現在の臨床で馴染みの深いジルコニアや二ケイ酸リチウム材料の安全な接着法などについて示した。

3)教育講演3「ジルコニアの接着を再考する」(新妻由依子氏、昭和大歯学部歯科保存学講座美容歯科学部門)
 本演題では、3Y-TZPから歯科界への導入が始まったジルコニア材料のその後の発展について示したうえで、(1)プライマーについて、(2)コンタミネーションについて、そして(3)表面処理について、の3点に分けて解説。(1)では機能性モノマーのMDP(10-methacryloyloxydecyl dihydrogen phosphate)を含むプライマーが最新のジルコニア材料に対しても有効であること、(2)では唾液による汚染が接着力を大きく低下させることと、アルミナサンドブラストおよび各種専用クリーナーの効果について、そして(3)ではアルミナサンドブラスト処理のタイミング(装着までの時間)および適した粒径・圧力について示され、前者では可及的に装着の直前に行うことが有利であること、また後者では5Y-TZPに0.3MPaのアルミナサンドブラスト処理を行ったところ0.2MPa以下の場合よりも曲げ強度が低下したため、この場合には弱圧で慎重に行うか各種クリーナーを活用することを推奨した。

4)一般講演1「先天的な歯の異常による審美障害の改善を目指して、 シングルリテンションブリッジで治療した1例」(富施博介氏、東京都開業)
 本演題では、先天性欠損と矮小歯がみられた初診時15歳の女性患者に対し、30歳時までの経過観察中の症例を供覧。完全埋伏していた上顎右側犬歯の挺出を含めた矯正歯科治療を行い、確保したスペースに360度ベニア(上顎右側側切歯部)と片側リテーナーの接着ブリッジ(上顎左側側切歯部)を装着し、その後のメインテナンスの過程などまでを示した。

5)教育講演4「デジタル・マテリアル変化に対応した機能的なクラウンの作製」(遠山敏成氏、東京都開業)
 本演題では、昨年7月に逝去した桑田正博氏(歯科技工士、クワタカレッジ主宰、ボストン大歯学部客員教授)が提唱したF.D.O.(Functionally Discluded Occlusion)理論と3plane conceptについてまず解説。この両者が補綴装置の形態・機能にもたらす影響・効果について示したうえで、これらを活かしつつデジタル化した工程について紹介。そのうえで、デジタル化によってさまざまな形態を3Dで表現することが可能になったが、あくまでPC画面上での話であり、実際に形となる補綴装置にはアナログ・デジタル関係なく適正な形態が必要であり、その製作には明確な基準が必要であると締めくくった。

6)一般講演2「先天性欠如を伴う歯列への対応に矯正治療とインプラント治療を用いた一例」(高島浩二氏、富山県開業)
 本演題では、下顎右側第二小臼歯、下顎左側側切歯、上顎左側側切歯の3歯が先天性欠損しており、さらに智歯の抜歯後に空隙が広がってきたと訴えた患者に対し矯正歯科治療とインプラント治療を行った症例を供覧。上述のF.D.O.に基づいた咬合を目指し、咬合力を全歯に均等に分散させ、犬歯関係をⅠ級とし、さらにオーバーバイトも適正に仕上げるまでの過程を示した。

7)一般講演3「変形性顎関節症の患者に対して咬合再構成を行った症例」(杉山達也氏、群馬県開業)
 本演題では、10年以上顎関節の痛みと開口障害に悩み、2015年に初診で来院した患者に対し、筋症状をともなう変形性顎関節症(非復位性の円盤転移)と診断したうえでの治療経過について供覧。顎関節症に対してスタビライゼーションスプリントによって筋のディプログラミングを図り、再現性のある顎位で2年間のプロビジョナル期間を設けて最終補綴装置を装着後、4年が経過するまでの過程について示した。

 また、全演題終了後には30分以上にわたるディスカッションが行われ、配信会場に臨席していた日本臨床歯科学会の役員、そしてWeb経由の視聴者から寄せられた質問に対して演者らがていねいに答えていた。

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