2023年3月12日掲載

林 美加子氏が「根面う蝕と歯髄保護」をテーマに講演

大阪大学歯学部同窓会、第561回臨床談話会を開催

大阪大学歯学部同窓会、第561回臨床談話会を開催
 さる3月12日(日)、大阪大学歯学部同窓会(谷口 学会長)による第561回臨床談話会が、大阪大学歯学部記念会館(大阪府)およびWeb配信にて開催された。今回は講師に林 美加子氏(阪大教授)を迎え、「根面う蝕のマネジメントと歯髄保護―最新の診療のガイドラインに沿ったう蝕治療―」をテーマに講演が行われた。

 講演の前半では、いま高齢者を中心に増加している「根面う蝕」への対応について、日本歯科保存学会による最新の診療ガイドラインに沿って説明がなされた。根面う蝕は、基本的には非切削による対応が推奨される。深さ0.5mm以下の初期の根面う蝕の場合は、「フッ化物配合歯磨剤とフッ化物配合洗口剤の併用」が、う蝕を活動性から非活動性にする効果があるとされた。ガイドラインでは、エビデンスの質、効果と副作用のバランス、多くの患者が望むか、費用対効果の4つから評価し、「強い推奨」となっている。

 ハイリスク患者の根面う蝕の場合は、欧米で普及している「高濃度フッ化物配合歯磨剤(5,000ppm)」が進行抑制に有効であるとされた。ただし、エビデンスの質や効果は高いものの、日本では薬機法で認められていないことから「弱い推奨」にとどまった。フッ化物配合歯磨剤については、2023年1月に日本歯科保存学会を含む4学会共同で「フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用法」の改訂版が発表されている。

 要介護状態などの虚弱高齢者の場合は、根面う蝕の進行抑制に「38%フッ化ジアンミン銀製剤」の効果が高いとされた。フッ化ジアンミン銀製剤は、日本では従来、小児のう蝕治療に使われているが、その高い抗菌作用とう蝕の進行抑制作用により、高齢者の根面う蝕予防にも有効であることが世界的に注目されている。ただし、う蝕部位が黒変する副作用があるため、家族や本人から了解を得たうえで「強い推奨」とされた。

 休憩をはさんで、う蝕治療における「歯髄保護」をテーマに講演が行われた。過去には、う蝕除去中に露髄した場合は即抜髄であったが、いまは歯髄を残す判断をすることも多い。そうしたケースで、直接覆髄と暫間的間接覆髄のどちらを用いるべきか、直接覆髄する際にはMTAセメントと水酸化カルシウムのどちらが有効か、MTAセメントによる永久歯の断髄は有効かなどが、過去の論文や阪大での症例をもとに検討された。

 講演後には約20分、質疑応答の時間が設けられ、根面う蝕の削る・削らないの判断や、歯科医院でのフッ化物塗布による根面う蝕の予防効果などについて、視聴者から質問がなされた。

 なお、「根面う蝕の診療ガイドライン」の最新版は、日本歯科保存学会のウェブサイトから無料でダウンロード可能である。

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