2023年11月16日掲載

患者トラブルと対応策について専門を超えて議論

2023年度東京矯正歯科学会秋季セミナー開催

2023年度東京矯正歯科学会秋季セミナー開催
 さる11月16日(木)、有楽町朝日ホール(東京都)において、2023年度東京矯正歯科学会秋季セミナー(本吉 満会長)が、「矯正歯科治療における患者トラブルと対応策」をテーマに開催された。

 今回のセミナーは、西井 康氏(東歯大教授)をモデレーターに迎えたリレー形式の講演内容となっており、中納治久氏(昭和大教授)から示された昭和大学病院矯正歯科における事例と質問について、宮地英雄氏(精神科医、こころのホスピタル町田)、末石倫大氏(弁護士、末石・古久保法律事務所)がそれぞれの専門の立場から見解を述べつつ、講演を展開するというユニークなものであった。

 最初に中納氏が「矯正歯科治療における訴訟および精神的に問題ある患者について」と題して登壇し、アライナー矯正治療によるトラブル例と精神疾患をもつ、あるいは疑われる患者の来院例をそれぞれ3例示した。それぞれ考えられる対応として、積極策と消極策の両方を提示し、どんな対応が最善であったかを他演者に投げかけた。

 次に宮地氏が「歯科処置と精神医学的問題」と題して登壇した。中納氏の質問に対し、こうしたトラブルになる患者の受診契機としては、客観的な数値として推し量ることができない個々人の口腔内における「感覚の問題」が多く、その情報を詳しく聞くことが重要だとした。また、そうした患者に医療者が対応するには、評価、説明、処置、そしてさまざまな人との連携が必要であり、1人で解決しないことを強調した。
 
 続く末石氏による講演「“矯正にまつわる社会問題”への法的アプローチ」では、矯正歯科治療における法的トラブルの内訳や対応の流れ、実例の概要などが紹介された。また、中納氏の質問に答えるなかで、トラブル症例に関して前医への批判はできるだけ避け、他院の訴訟において意見書・診断書作成の依頼があった場合は、協力と第三者としての客観的な評価を求めた。

 質疑応答では、会員からの「精神疾患患者の同意だけで治療を進めていいのか」という問いに、宮地氏は「治療においては、感覚の変化が起こりうることについて、どこまで患者の理解を深められるかが重要である。よく説明を行い、理解を得られないのであれば、治療を行わない方が良い」とし、末石氏は「歯科治療を受診するような患者であれば法的には同意が有効であるが、説明の場に家族などの第三者が同席することを推奨する。さらに、治療開始後も1対1の状況にならない方が良い」と回答した。最終的に、トラブルは1人で抱え込まないこと、そのため本学会のような同業者が多く集まる場の意義などが述べられ、盛況のうちに終了した。

 東京矯正歯科学会第83回学術大会はきたる2024年7月11日(木)、秋季セミナーはきたる2024年11月21日(木)、ともに有楽町朝日ホール(東京都)において開催予定である。

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